第8話義理の妹ってこういう存在?←そんなわけ無い…
硝子の家へ不意に訪問した日から数日が経過していた。
その間も僕と硝子はチャットのやり取りなどを行っていた。
確実に失われた時間を埋めるように僕らは毎日お互いの近況や過去の出来事を知らせ合っていたのだ。
僕らはもしかしたら…
このまま昔の関係に戻って幸せに暮らせるのかもしれない。
この時の僕は確実にそう感じていたのだ。
作業に集中している昼過ぎだった。
不意にチャイムが鳴って集中にノイズが走る。
一度作業を切り上げるために保存のアイコンを押すと玄関へと向かった。
僕の家を訪れる人物は一人しか心当たりがなかった。
それは友人でも硝子でもない。
モニターで確認するわけでもなく玄関を開け放つと…
「こんにちは。隣に引っ越してきた熊野エリって言います。
ささやかなものですが…どうぞ」
当てが外れて見知らぬ初対面の相手にズボラな格好を見られてしまう。
「ご丁寧にありがとうございます。
お隣同士ですから騒音を感じたりしたら遠慮なく言ってください」
僕の何気ない一言に熊野は少しだけ驚いたような表情を浮かべている。
「えっと…そういうお仕事をしているとか…ですか?」
不意に投げかけられた言葉に僕は自らの考え無しの発言を軽く呪っていた。
しかしながら苦笑の表情を浮かべて首を左右に振って見せる。
「いえ。ボイスチャットを繋いでゲームしたりするので…
白熱して騒がしくなるかもしれません。
気をつけますが…
気になったらいつでも仰ってほしいです」
「そうですか…私もうるさいと思ったらいつでも仰ってください」
何故かお互いに少しだけ気まずい空気を感じ取っていたことだろう。
続く言葉が見つからなかったのはお互い一緒だっただろう。
眼の前の女性は僕よりも少しだけ若く思える。
今では僕もそれなりの稼ぎでそれなりのマンションに住んでいた。
熊野は僕よりも若いというのに身なりも整っており明らかに裕福な暮らしをしているのが服装なり身につけているアクセサリーなどで理解出来た。
どの様な仕事をしているのか…
そんなことが脳内に思考として現れようとしていた。
ただしその様な詮索をすれば僕も同様の質問をされるかもしれない。
それなので僕は話を切り上げるように少し不自然な笑みを浮かべて口を開いた。
「今日は外に出る予定もなく…
尋ねてきたのも妹だと思っていたんですよ。
お見苦しい格好で申し訳ありません。
それでは…」
「私こそ突然申し訳ありません。
では…これから隣人としてよろしくお願いします」
何故か熊野は僕に謝罪の言葉を口にして頭を下げていた。
別れの言葉をお互いが口にして…
僕は玄関のドアを閉めたのであった。
そこから再び作業に戻って一時間が経過する頃だった。
僕の作業を中断させるチャイムが鳴って再び玄関へと向かう。
今度こそ妹だろうと玄関を開けると…
「久しぶり。何か…女性が来てた?」
義理の妹である桃は玄関の鍵が開いたことに気付くとごく自然にドアを開けて中へと入ってくる。
玄関周りに充満していたであろう熊野の香りを桃はスンスンと嗅いでいた。
「お隣に女性が越してきたんだ。さっきまで挨拶に来ていた」
事実を口にしてみても妹は信じていないようで…
戯けるような表情を浮かべていた。
もしくは怪訝な表情だったかもしれない。
桃の両手には一週間分の買い出し品が入ったビニール袋が存在している。
妹からそれを受け取ると僕はリビングへと向かっていた。
「かなり稼いでいるんでしょ?
家にも沢山仕送りくれるってお母さんが言っていたし…
宅配サービスが充実しているんだから…
それを頼めば?」
桃は重たい荷物を持ってきたため非常に疲れているようですぐさまソファに腰掛けた。
「まぁ…特殊な職業だからね。住所とかバレたくないんだよ…
毎週来てくれてありがとうな。
迷惑かけている自覚はあるよ。申し訳ない」
「別に…今のはちょっと当たっちゃっただけだし…
私も…一週間に一度は会いたいし…
料理するのは得意だし…
美味しいって言ってもらえるのは嬉しいし…」
本心から来る謝罪の言葉を口にすると桃は急にツンデレの定型文の様な言葉を口にして伏し目がちな表情を浮かべている。
そんな妹に苦笑しながら僕は感謝の言葉を伝えていたのであった。
桃は心にも思っていない意地悪な言葉を吐いていたが…
普段通りキッチンに立つとそこから一週間分の料理に取り掛かっていた。
妹も集中するだろうし僕も作業に戻っていた。
そこからかなりの時間作業に集中した僕らだった。
不意に硝子からチャットが届いて…
僕らは普段通りのやり取りをしていた。
「提出物の作業があるから…良かったら通話しない?
一輝も作業があると思うけど…
通話しながら…お互い作業するとか…無理?」
硝子からの嬉しい誘いがあったのだが…
今現在家には妹の桃がいて…
「今日は難しいかも…実は妹が家に来ていて…」
「えっと…妹さんって義理じゃないっけ…?何しに来るの?」
核心を突くような少しだけ問い詰めるようなチャットに僕も軽く同意する気持ちではあった。
ただし妹の来訪にはそれなりの理由があり。
僕は正直にそれを伝えると…
「え…じゃあ私がその役務めるけど…?」
急に積極的なチャットを送ってくる硝子に僕は少しだけドギマギしながら…
しかしながらどの様な返事をするべきか思い悩んでいた。
「とりあえず妹に聞いてみるで良い?」
そんな消極的な言葉に硝子は軽く嫌気が差したのか…
「付き合っていた頃から思っていたんだけど…一輝ってシスコン?」
不意に不名誉にも思えるチャットが送られてきて僕は軽く苦笑していた。
「じゃあ…硝子に任せていいの?」
僕も踏み込んだ質問を投げかけてみると…
硝子は少しだけ間隔を開けて返事を寄越す。
「トラブルになりたくないから…妹さんにしっかりと許可取って?」
「分かった…色々ごめん」
「謝るようなことじゃないよ。それに私も意地悪言ってしまったし…
私こそごめん。家族を大切にすることは良いことなのに…」
「いやいや。謝らないで」
「うん…ありがとう…」
そこでやり取りを一時中断させた僕はリビングへと向かう。
妹の桃はキッチンで一生懸命に料理を作っている。
やはりその姿を目にしてしまうと…
僕は妹に残酷な言葉を吐けるわけもなく…。
「桃…毎週料理するの大変じゃないか?」
この様な自分本位ではない言葉を口にして軽くお茶を濁していたことだろう。
僕の言葉で何かを察した桃は軽くこちらを睨むような形で視線を送ってくる。
「何?急に…。さっきと言っていること違うけど?
もしかして誰かが作ってあげるって言ってきたとか?
でも私はこの役割を誰かに譲る気はないから」
桃ははっきりと言い捨てるとそこからも不機嫌そうな表情を浮かべながらキッチンで料理を進めていたのであった。
スマホを手にした僕はやはりというべきか…
硝子に断りのチャットを送っていた。
「分かった。じゃあ私は妹さんとは別の所で役に立つから…」
硝子は何故か桃に対抗意識を抱いているようで…
僕には彼女らが抱える本当のところの感情の正体がわからずに苦笑することしか出来ない。
「じゃあ明日こそは作業通話か…コラボ配信してよね?
今日の埋め合わせをして…♡?」
それに僕はどの様な返事をしたのだろうか。
次回で真相を明らかにする…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。