第6話ここは予想していた通りの場所で…
酔いが覚めてきたのだろう。
目を閉じながら思考が少しだけ回っていた。
タクシーに乗った所で急激な眠気を感じ心地よく懐かしい匂いに包まれながら僕は眠っていたはずだ。
少しずつ思い返していた。
焼肉屋を出てタクシーに乗った僕は眠ってしまい…
そこではたっと気付く…
隣には硝子が居たはずで…
意識が完全に覚醒してハッとして目を覚ます。
ガバっと起き上がった僕は見覚えのない部屋をキョロキョロと見渡していた。
「何処…?まさか…」
予想通りであるならば…
ここは硝子の住む家である。
彼女は僕を介抱してくれて…
ここまで運んでくれたのだろう。
申し訳なく思うと同時に急激に頭痛がやってきて飲みすぎたことを理解する。
水を貰うために起き上がるとキッチンの方へと歩きだしていた。
とそこに玄関のドアが開いて閉まる音が聞こえてくる。
何故かはわからないが警戒してそちらに視線を向けていると…
「あ。起きた?調子はどう?」
硝子はコンビニに行っていたようでビニール袋を持ってリビングへとやって来る。
「ここまで運んでくれてありがとう。迷惑かけたね…
調子は…頭痛が激しい…完全に飲みすぎた…」
情けない表情を浮かべて…
これまた情けない言葉を口にする僕に硝子は微笑ましいものを見るような表情を浮かべていたことだろう。
「沢山水分補給したほうが良いよ。喉乾いているでしょ?」
硝子はビニール袋を僕に手渡してくる。
中身を確認すると飲みすぎた後に最適な様々な種類のドリンクが数本入っており僕はお礼を口にすると水分補給に努めていた。
「助かった。ありがとう。運ぶの大変だったでしょ?」
「そうでもないよ。肩を支えていただけだから。
自分で歩いてくれたし声を掛けて指示したらちゃんと従ってくれたし。
全然大変じゃなかったよ」
僕の申し訳無さそうな表情を目にしていた硝子はフォローするような言葉を幾つも投げかけてくれる。
彼女の本質的な性格も昔と変わっておらず優しいままだった。
しかし僕は彼女のそんな優しに完全に甘えるわけにもいかず…
「申し訳ない。
明らかに情けない姿を晒してしまった…
もう恋人でも無いのに…
本当にごめん…」
「そんなに寂しいこと言わないで…
逆に嬉しかったまであるんだから…
一輝が言うように私は恋人でも無いのに…
そういう姿を晒してくれたんだよ?
私にとっては嬉しい出来事だったんだから…」
僕を慰めるわけでもなく硝子は真っ直ぐに僕の目を見つめていた。
そんな彼女の本心と思われる言葉と態度が僕の心を完全に揺すぶっていた。
このままだと彼女は僕の心にいつまでも存在することだろう。
それが悪いことではないと分かってはいるのだが…
しかしながら僕らは一度駄目になり別れたわけだ。
復縁が上手くいく例も存在するだろう。
ただし一度終わってしまった関係を完全に修復できるのだろうか。
何処かに綻びや隔たりやわだかまりが生まれるものではないのか。
などと僕はまだ始まってもいない硝子との復縁後の生活を想像していた。
それは現在硝子の家に二人きりでいるからだろう。
同棲しているような気分を感じているのは僕だけだっただろうか。
もしかしたら何食わぬ顔をしている硝子も何かを夢想していたり心の中では気持ちが踊っているかもしれない。
硝子の表情を確認して…
彼女が柔和な笑みを浮かべていることに気付く。
僕の妄想のような想像もあながち間違いではないかもしれない。
ふっとそう感じると僕も自然体の表情で微笑んでいたことだろう。
硝子から貰ったドリンクを持ってソファに戻ると彼女も後を付いてくる。
「まだ眠い?」
少しだけ意味深な言葉を投げかけられた僕だったが…
深く考えることもなく反射的に答えていた。
「眠くないよ。しばらく寝たみたいだし…」
「そっか。じゃあもう少し夜ふかししよう?♡」
かなり色気のある表情に声色だったと思われる。
僕はこの後に続く展開を予想して…
一人で胸を高鳴らせてしまうのであった。
次回。
まだ決してそういう展開にはならないと宣言しておく。
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