第4話初コラボ

現在僕は配信の準備に取り掛かっていた。

初めてのコラボ配信でありかなりの緊張感を抱いていた。

公の下となる配信で彼女とどの様な態度で接すれば良いのか…

そんなことに思考を集中させていたことだろう。

そう…あの日、僕が軽はずみでしたチャットが現在の状況を呼んでいたのであった。



「本日も始まりました。というわけで…不作之831です。

久しぶりに異性とのコラボ配信となります。

お菓子工場ではない個人Vとのコラボなのですが…」


「個人V?あまり知らない人?」


「有名個人Vなら数名に絞れるけど…?」


「しかも男性なら尚更のこと…」


コメント欄は少しだけざわついているように思えた。

僕は歓迎されているのか…

はたまた拒絶されているのか…

今のところは察せることが出来ず…

そわそわとその後もコメント欄を確認していた。


「おぉー…予想通りの反応で助かります。個人Vで男性と言えば…

みなさんも想像しているとおりですね。

一輝先生です。

私達の出会い?というか馴れ初め?はとりあえず脇に置いておくとして。

早速入ってきてもらいましょう。

一輝先生ー!」


不作之831からの呼びかけに応えるようにして僕は通話のミュートを解除した。


「初めまして。イラストレーター兼個人Vの一輝です。

皆様も御存知の通り…

不作之831さんが所属するお菓子工場さんとは何度もお仕事をさせてもらっていまして。

その流れというか諸事情ございまして…

今回のコラボと相成りました…」


僕の堅苦しい説明口調に不作之831はフフッと微笑んで話に割って入った。


「固いって…もっと砕けた感じじゃないと同接数が減るよ?」


「ごめん…。普段の配信でも固い感じだから…」


「それは知っているけど…折角のコラボなんだから砕けた態度にしてみたら?

リスナーさんは新鮮味あると思うよ」


「そう?じゃあそうする。配信開始告知した?」


「今からする。ちゃんとコラボ内容も記載してよ?」


「分かった…」


僕らは開始の告知をすると早速ゲーム画面を配信上に映し出す。


「協力して天辺まで登るってシンプルなゲームだけど…

やったことある?」


不作之831から質問を受けた僕は苦笑交じりに口を開くこととなる。


「無い。コラボ配信は今回が初めてだから。

自ずと協力ゲーとか複数人で遊ぶパーティゲーの類はやってこなかった」


「初めて…光栄ね。でも複数名でチームを組むFPSとかやっていなかった?」


「あぁー…あれはリスナーさんの中から募集したり…野良と組んでた」


「なるほどね。どうしてもやりたい時はそういう手法を用いていたのね」


「まぁね。オフでも関わりのあるVはいないから」


「あぁー…それだと私があるみたいだけど…?」


「あ…言葉の綾ってことで…」


「発言を撤回しなくても別に良いけど…」


僕と不作之831のやり取りはリスナーにとってもかなり初々しく映ったようで…


「なんだこの癒やし空間…」


「831ちゃんって異性に興味あるんだ…」


「初めて摂取する栄養だ…」


「もしかして…いいや…そんなわけ無いか…」


などなど様々なコメントが僕らの配信に届いており…

僕らは軽く背筋を正すと早速ゲームに取り掛かるのであった。



「一輝先生は作業配信とかしているみたいだけど…

雑談しながらでも作業に集中できるの?」


不作之831はゲームプレイ中でも雑談を切り上げることは一度もなかった。

僕も普段から作業しながら雑談もしているため慣れていたのだが…


「いや…待って!?今は流石に集中するべきじゃない!?」


現在僕らはかなりの難所を攻めているところだった。

ワンミスでもすればそのまま開始地点まで真っ逆さまな状況だった。

それでも不作之831は雑談を緩めようとはしなかった。


「普通にクリアしても面白くないよ。雑談をやめないとか縛りがないと。

そういう配信こそリスナーさんは喜んでくれるんじゃない?」


「なるほど…勉強になります…って本当にそれどころじゃないって…!

ミスったら今までの時間が無駄になるんですけど!?」


「良いじゃない。落ちたらまた一から私とゲームが出来るんだよ?

それ即ちまた同じぐらいの時間…一緒に雑談配信が出来るんだよ?

嬉しくないの?光栄じゃない?」


不作之831は完全に僕を誂っているように思えて仕方がなかった。


「確かに長時間通話出来るのは嬉しいし光栄ですけど…!

でもクリアはしたいんですよ!」


僕の本心の嘆きを耳にした不作之831はケラケラと笑っていた。

しかしながら彼女はわざとプレイミスをするような出来レース風な行為を一切しなかった。

それが好評を呼んだのか…

僕らの同接数はかなりの数字を叩き出している。

そんな大勢の視聴者に見守られながら僕らは数時間掛けてクリアをするのであった。




「はい。というわけで無事にクリアしたわけですが…

まぁ私が何度も登頂したことがあるので。

私のキャリーの御蔭ですね」


不作之831はドヤ顔を浮かべるようにして自らの功績を称えていた。

僕は僕でかなりの疲労を感じており適当に受け流すだけだった。


「え?今回のコラボがトレンドに入っている?

これならば…次回もあるかもです。


一輝先生はどうでしたか?

楽しかったです?

また私とコラボしたいですか?」


「楽しかったです。

仰る通り…またコラボできたら幸いです」


「はい!言質取りました!

ではまたのコラボまで!

みなさんもお楽しみにください。

じゃあ今日は以上で。

さようなら」



僕らは配信停止ボタンを押すが通話を繋げた状態だった。


「今日はありがとう。一輝のお陰でかなり楽しめた。

同接数も今までで一番だったし…

今後も私達のコラボは人気になりそうだね…」


不作之831こと硝子は少しだけ照れくさそうに口を開いており…

僕も同じ様な気分だったことだろう。


「またコラボしよう。本当に楽しかったから…」


「うん…じゃあ…またね?」


「あぁ。もし良かったら…」


僕は思わず口を開きかけて…

続く言葉を必死に抑え込んでいた。


「なに?もし良かったら?」


硝子は続く言葉を期待しているように思えて…

僕は勇気を振り絞ってその先の言葉を口にするのであった。



その内容は次回で明らかに…!?

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