第2話小さくも確かな一歩
「久しぶりに連絡するけど…
単刀直入に言って…
不作之831って硝子じゃない…?」
端的に事実が知りたくて僕は元カノである硝子にチャットを打っていた。
しばらくするとチャットの返事が来て…
しかしながら思っていたような返答では無く…
その返事を見て僕はどの様に答えるべきか悩んでいた。
「えっと…何のこと?
って言うのは流石に無理があるけど…
守秘義務があるから詳しい話は出来ないよ」
「あぁー…そういうのもあるね。
何も考えもしないでチャットしてごめん…」
「良いけど…もしかして不作之831の配信を観ているってこと…?」
「まぁ…うん。そうだね…」
「もしかして今日の配信も観ていたとか…?」
「うん…それで連絡したって言うと流石にキモいか…」
「別にキモくはないけど…」
「そうか…」
そこで僕らのチャットのやり取りは終りを迎えると思われた。
既読はついたが続く返信がない。
ということはこれでやり取りは終了なのだろう。
そう思ってスマホを机の上に置く。
平日の昼間だと言うのにチャットを送り合える。
僕らの職業は特殊なものと思われた。
きっと…言えないだけで不作之831の正体は硝子で間違いないのだろう。
先程の反応から伺える事実を思い出して僕は少しだけ浮かれた気分だったことだろう。
しかしながらいつだって思っていた通りに動かないのが他人である。
「
既読がついてから数分後に短いチャットが届いたのだ。
僕は何とも言えない感情に包まれており…
はっきりと言って感慨深かったのだ。
別れた元カノが僕の現在の所在を確認してくる。
勘違いかもしれないが僕をまだ気にかけてくれている。
そんな気がしたのだ。
もしかしたら盛大な勘違いかもしれない。
でも…僕はその一言のチャットが嬉しくて仕方がなかったのだ。
「元気だよ。硝子は?」
同じ様なチャットを送って彼女の現在を知りたかった。
「私も元気。上手くやれているよ」
「そうか。それは良かった」
「一輝は?仕事の方は順調?」
「まぁ。って仕事につけたこと知っているんだ?」
「あ…うん。色々と知っているし…たまたま本屋で見かけたよ…」
「そっか…お互いに順調なら…それで良かったよ」
「うん…本当にそうだね…」
僕も硝子も続く言葉が出てこなかった。
もしかしたらどちらかが勇気を振り絞ってこの先に続く言葉を文字にしていたら…
この瞬間に何かが変わっていたかもしれない。
そんなタラレバの話は未来の僕らにしかわからないことなのだが…
もしものことを考えてしまうほど…
この時の僕らは消極的だったのだ。
「じゃあお互いに仕事があるだろうから。またね」
硝子からチャットを終える返事が来て僕もそれに返事をした。
「うん。また」
それだけの短いやり取りでチャットは終了したと思われた。
しかしながら硝子から続くチャットが届いて…
僕は思わず表情を綻ばせて了承する返事を送るのであった。
「これからも…時々で良いからチャットして良い?
私からも送るし…
一輝からも送ってほしい…良い?」
そして僕らは小さくても確かな復縁への一歩目を踏み出したのであった。
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