第3話



 階段を登って、駅の正面まで歩いた。


 ログハウスのような木造建築の構内には、駅員さんはいない。


 上田浦駅は無人駅だった。


 1時間に1本しか走らない小さな駅で、地元の人しか利用しない。


 私と同じように駅を出ていく人たちが何人かいたけど、数える程度だった。


 私だけが利用している日も珍しくはない。


 学校までは少し遠いから、小学生の頃はよく利用していた。


 私が住んでいた町の子供たちは、元々あった小学校が廃校になり、隣町である芦北町の田浦小学校に通うようになっていた。


 「超」がつくほどの田舎だったから仕方がないんだ。


 コンビニなんてないし、目につく建物はみんな“古い民家”って感じの家ばかり。


 いつか町を出て、東京みたいなところに住んでみたい。


 そう思ったことが、何度あったかわからない。



 ずっとそうだった。



 海の波音を聞きながら、“ここじゃない場所に行こう“と思ってた。


 不満があったわけじゃなかったんだ。


 街の人の笑顔や、何気ない日々の暮らしも。


 打ち寄せる波の岸辺で、遠い海の“向こう”を見てた。


 線路沿いに続く長閑な町の風景や、色褪せた防波堤のコンクリートを。



 いつも、感じてた。



 電車の車窓から見える景色は、いつも、広い世界を運んでいた。


 眩しすぎるくらいに明るい日差しが、漣の中を泳ぐように反射していた。


 夕暮れ時の静けさや、山の麓に落ちる木漏れ日。


 ガタンゴトンと揺れる音の向こうに、“何かが“ある。


 そう思いながら、ふと、視線を傾ける自分がいた。


 あの町、——あの、岬の先に見える道を曲がったら。


 

 なぜか、どうしようもなく寂しくなる感情の縁で、——そう。




 

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