第2話 胃の中の蛙に代わり
スキルとは、
生物的特徴を基にしたモノと、個別の才能由来がある。
「大きな虫さんの、スキルはコリコリしとるの~、これは~…?」
モンスターの血を摂取したことでレベルアップしたシアは、
≪スキル摂取≫スキルを習得するに至っていた。
誰しもが持っている可能性を一欠片程度の物だが、
彼女の貯め込んだ経験値が与えらることでそれは、開花した。
「これは!≪完璧味覚≫スキル、なのじゃ~うまうまなのじゃ~」
新たなスキルを得たことで味を、
すなわちスキルの詳細を、シアはわかるようになったのだった。
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「う~む、他にもスキルを食べたいの~、でも、さっき経験血も少なくなってしまったのじゃ~」
だからといってここは、安易に狩りに行こうとは言えない場所。
レベル200以上級しかいない魔境で戦うには彼女は貧弱すぎるのだ。
「やはり、食べ残しをさがすしかないんじゃ~」
地下洞”紺碧”の中を、時折見かける凶悪なモンスターに見つからないように歩き続けて早2時間ほどが経っていた。思案に思案を重ねてもいまだ突破口を見つけられずにいた。
グュ~、キュル~キュ~
独特な腹の虫の声がなり、お腹を擦りながら、彼女は困り果てた。
「腹の虫さん、すまないんじゃ~。此方も食べさせてやりたいのは山々なんじゃが……」
だが目の前には、洞窟ないに自生している苔やら、草やらばかりだ。
彼女好みの肉などありはしない。
キュ~、グュ~
「いやじゃ!」
グュ~、グュ~、キュル~
目の前の食べれそうなものを目にし腹の虫が食べろと鳴き続ける。それに反抗するように顔を背け、足を背け、背中を向けて、抵抗するが彼女自身の空腹であるがゆえに手が伸びる。
「むむむむ~!ぐぁ~!」
手に取った草を口に運ぶが開いた反対の手でそれを止める。
でも止まらない…なにせ空腹なのだ。
パクッ!ムシャムシャ
昔からの記憶から、苦い味が口いっぱいに広がっていく想像が、頭を、そして舌を満たす。
「むむ!」
だが、意外にも苦さの奥に、別の味を感じた。
「経験値じゃ!それに……これは、スキルかの?」
舌で転がし、何度も感触を確かめる。柔和な触れ先と甘味。
「[感嘆の治癒]?、ほ~、これは癒しのスキルじゃったか!」
舌で転がし、味を楽しながら、洞窟内に生息している”癒し手の草”と呼ばれる薬草。かつては重宝され、品種改良とともにいまでは見向きもされなくなった旧種の薬草を口に放り込んでいく。
「慣れると甘くておいしいんじゃ~、もっと欲しいんじゃ~」
そうして、周りを警戒することを怠り背後に忍び寄る獣の気配に気づくのが遅れた。
クルゥククック、クルゥクックク
黒光りする鱗を纏い、喉の奥から、独特な音調を鳴らしながらやってきた。
「ギャー!なんじゃおまえー!う、後ろから忍び寄るのは失礼じゃろー!」
驚きのあまり、レベル差を忘れ、手に持った薬草を投げつけて悪態をつく。
[カミカミドククロダイオウトカゲ]レベル220。とんでもなく大きなその体は、シアから見れば、全体像が見えず大きな爬虫類の顔だけだ視界いっぱいに拡がっていた。
明らかな絶望的な相手。
彼女の叫びなど気にする様子もなく、洞窟の硬い岩壁や、苔や草、そのほか諸々を、大きな口を開き、硬い歯で掘削するように、その奥へ飲み込んでいく。
そのなかには当然、シアも含まれていた。
「ギャアアアア、死んだぁ!確実に此方は死んだんじゃー!ぶべっ!」
[カミカミドククロダイオウトカゲ]の腹の中に納まったシアは、食道を通って、胃の中に、顔面から着地することになった。
「いったーいんじゃ。む!生きとる、良かったー。ん?なんじゃここは?」
広い、薄い桜色の空間。奥は暗くなにか怪しいモノが潜んでいそうな気さえした。
「此方以外も、生きとるもんがおる!」
クルゥククック、クルゥクックク
独特な音を鳴らし現れたのは、先ほど見たモンスターの子供たち。
[カミカミドククロダイオウトカゲ]の特殊な生育方法を垣間見た瞬間であった。
「レベルは、大したことないの。20レベル、っといったところじゃな」
丁度同じ具合のレベル帯の相手に胸を撫でおろしたシアだったが、
同じ力でも相手は複数いることを思い出し、嫌な汗を垂らしてしまった。
「ムムム、どうしたモノかの」
相手はその隙に、這いずるようにして近くまで迫り、
長い舌をなめるようにして出したと思えば鋭い牙で噛み付きにきた。
「あぶない、っのじゃー!」
見事なダイビング回避で危機を脱したが、すぐに次の牙が襲い掛かってきた。
何度も、何度も、本能的な嗅覚からか、神がかり的な回避を見せる。
「やっぱり、此方はここで死ぬのじゃー」
女神の気まぐれは、残念ながら何度も続かない。
足を掠めた一撃からはじまり、肩、手足と鋭い牙が刺し通る。
「痛いんじゃ、もう嫌じゃ、だれか助けてほしいのじゃ」
悲痛な叫びは良く通るだけで、誰かの耳に入ることはなく、過ぎていく。
額から血が流れ、口に入る。体中から血が流れていく感覚がその身に伝わっている。
血が流れる。それは、彼女の吸血鬼としての本能がその危機から目覚める。
それもとびきり強力で、危険なモノが……。
「死にとうない、死にとうない。此方はまだ死にとうないんじゃああああああ!」
シアの味は堪能していた、一匹のトカゲの前脚に噛み付いた。
硬い鱗とかみ砕き、肉と血を同時に含み、取り込む。
新しい血と、経験値と、スキルの欠片が体に染み渡る。
そして、先ほど手に入れた治癒の力にそのすべてが注ぎ込まれて、発揮された。
満身創痍の身体は、一瞬にして傷は塞がり、跡すら残さずふせいだ。
その間も離さず咬み続け、万全となった腕でトカゲを掴み前脚を引きちぎった。
そして、丸飲みしてしまった。
幼獣の中に眠っていたスキル[多食]。口に含んだあらゆる物から栄養を得るというスキルだと気づいたシアはトカゲの幼獣たちに飛びつき牙を立てる。
やがて、十分な経験値を得ると、[多食]は真価を発揮できる状態になった。
すかさず、手に取った鉱物を口に含んだ。[紺碧鉄]の硬質さをその身に宿すと、トカゲの幼獣の骨までひと咬みで食らう。その姿に逃げ出すモノも容赦なく襲い尽くした。
「今度、トカゲさんを食べるときは、焼いた方が良い気がするんじゃ~」
骨の一片まで残すことなく、シアは平らげた。
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≪経験値吸血≫スキルをもつ吸血鬼の少女は[魔境]に捨てられました。 新山田 @newyamada
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