第119話

 どんなにゆっくりと歩いてもやがては里恵の家が見えてくるもので。もう少ししたら里恵とも一旦お別れなんだと思うとほんの少し寂しかった。…これも、今日は朝から今までずっと里恵と一緒にいたからかな?


 「…ありがとね。ここまで送ってくれて」

 「全然大丈夫だよ?それに、彼女を家まで送り届けるのもやってみたかったことの一つだし」

 「…そっか」


 それからしばらくの間沈黙が続いた。本当ならもう暖かい家の中に入るように促さなきゃいけないんだろうけど、どうしても言葉が出なかった。


 「…ねぇ、一つお願いしてもいい?」

 「…お願い?俺にできることならいいよ」

 「…ぎゅってしてほしいの」


 どのくらい無言で見つめ合っていたのだろうか、里恵が不意にそんなことを言い出した。その言葉で寂しかったのが俺だけじゃないと分かった。そして覚悟を決めているのかじっと俺を見つめている切なげな視線に応えるためにも俺は一歩踏み出した。


 「もちろんいいよ。…というか、俺もしたかったし」

 「…ほんと?」

 「うん。ちょっと寂しいなって思ってたところだったんだ。だから里恵がそう言ってくれて良かったよ」

 「…そっか。守君も私と同じ気持ちだったんだ。私だけじゃ、なかった」


 …やっぱり、俺ももう少し積極的になった方がいいのかな?今回のこれだってそれ以前も大体里恵から言い出してくれたのに俺が便乗させてもらってる形だし…。もっと里恵に触れてたいって気持ちも当然あるんだけど、でも里恵も女の子だしあんまり距離感が測りきれないんだよな。里恵がどんどんこっちの方まで来てるのもあるけど…。


 「…うん、もう大丈夫!ありがとう守君!また明日ね!!」

 「…あっ!ちょっと待って!!これ、忘れ物」

 「…わ、忘れてた。ありがと、守君」

 「どういたしまして」


 ある程度抱き合っていると、里恵はそう言って離れていった。そこで俺は里恵の代わりに持ってきたお土産を渡した。…相変わらずな里恵の様子に俺はほっこりした気持ちになった。それでも急になくなった温もりにやっぱり寂しさもあるけど、明日も会えるんだからと気を取り直した。


 俺はそのまま里恵が家に入って見えなくなるまで見送った。…早く明日にならないかな?俺がそんな風に思うようになるなんてな。今までなら次の日は学校だからそんな風に思ったことなんてなかったのに。これも里恵のおかげだな。

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