第111話

 そのまま志多さんと別れた俺は自分の家の前で立ち往生していた。里恵は未だに幸せそうに寝てるし、起こすのも可哀想というか、せっかくならこのまま寝顔を眺めてたい気持ちもある。けど、里恵が俺の母さんと会うのを楽しみにしてるのは知ってるからちゃんと会わせてあげたいし…。


 悩んだ結果、俺はインターホンを押した。両手は塞がってるし、さらに右手には志多さんから受け取った箱もあるからドアを開けられないんだよね。


 「はーい。…って、守?それと、もしかしてそっちの子が?」

 「うん。俺の、その、彼女です」


 …やっぱり、自分の母親に紹介するのはちょっと恥ずかしいな。


 「あらあら、可愛らしい子じゃないの。大切にするのよ?」

 「分かってるよ。…絶対に幸せにするって決めてるから」

 「ならいいのよ。さっ、立ち話もなんだし、早く入っちゃって」

 「ああ。それじゃあ、ちょっと里恵…彼女を俺の部屋に寝かしてくるよ」

 「…ちゃんと節度を持ったお付き合いをするのよ?」

 「…わ、分かってるよ」


 俺は母さんの追撃を振り切るように自室に逃げ込んだ。そして里恵をベッドに横にしてちょっと考える。…この後俺はどうするのが正解なんだ?


 …このまま里恵と一緒に部屋にいると母さんに邪推されそうだし、かと言って部屋を出て里恵が目を覚ましたら見知らぬ部屋だし怖がられそうだけど。…うん、こういうときは里恵が最優先だよな。


 そうして俺は里恵の側にいることを選択した。…まぁ、俺が里恵と離れたくなかったっていうのもあるんだけどね?


 「…お茶でも持ってきた方がいいかしら?」

 「ん?…まぁ、寝起きは喉渇くだろうし、俺が用意するよ」

 「そ。なら私は昼食の用意してるから、目が覚めたら降りてらっしゃい」

 「了解。そのときにちゃんと彼女も紹介するよ」


 そうして俺は飲み物を用意するために母さんと一緒に部屋を出てリビングに向かった。そして部屋に戻ると里恵が起きていた。


 「起きた?お茶淹れてきたけど、飲む?」

 「…ん。飲みたい」

 「そっか。じゃあ、はい」


 俺がコップを渡そうとしてもふるふると首を振った。…あれ?何か変なところでもあったのかな?


 「…飲ませて」

 「飲ませてって…えっ!?いやいや!?」

 「…イヤ?」


 …彼女からそんな風に悲しげに聞かれて、断れるわけないよね?…けど、コップからってあーんとかよりも難易度が高すぎるんだけど!?


 「…いやではないけど」

 「ん。…あー」


 里恵はそう言って口を開けた。…ここまでされて躊躇するなんてできないよな?俺はそっとコップを傾けて里恵に飲ませてあげた。


 「んくっ、んくっ」


 …集中しろ。溢したりしたら目も当てられないぞ。せっかくのオシャレなワンピースを汚すなんて絶対にダメだ。…だから、里恵がえっちぃとか考えるんじゃない!!

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