第109話

 「…はぁ、はぁ、…きょ、今日のところはこのくらいで勘弁してあげるわ」

 「…ふぅ、ふぅ、…やった、私の勝ち!守君も見ててくれたよね!」

 「あ、ああ」


 里恵と郷田さんは俺の周りを走り回ってたんだけど、里恵が捕まらずに逃げ切っていた。…まぁ、郷田さんは俺にぶつかったりしないようにって少し離れたところを回ってたのに対して、里恵は俺スレスレの位置にいたんだから当然だとは思うけど。


 「私、ちょっと目が回っちゃったかも…。膝枕、して?」

 「…まぁ、いいけど。ここ、外だよ?」

 「…うん、それでも。…守君は迷惑?」

 「いや?里恵がそうしたいなら構わないよ。おいで」


 …こうやって甘えてくれるのは嬉しいけど、だんだんと里恵も緊張しなくなってきたのかな?こうやって外なのにイチャイチャしたいって言ってくれるなんて思わなかった。


 「…もう!このバカップルが!!私は帰る!ばいばい!」

 「うん、また明日ね」

 「ああ、気をつけてな」


 郷田さんはそう言って帰っていった。…これで俺と里恵だけなんだよな?そう思った俺は膝の上にある里恵の頭をそっと撫でた。


 「…ん。守君?どうしたの?」

 「ああ、いや?ただ、幸せだなって。…これも全部里恵のおかげだなって」


 …俺は今までこんなに誰かと近づいたことなんてなかった。もちろん、クラスで浮いてるとかそんなわけじゃないんだけど、必要最低限のことしか話してなかったように思う。そんな時間があるなら俺は勉強とかバイトとか、将来の役に立つことの方がいいんじゃないかって。


 それが間違いだったなんて思わないけど、里恵と一緒にいるともっと早くから友達になってたら楽しかったのかなって。


 「…そんなの、私の方こそだよ。守君と出会えてよかったって。いつもいっつも私ばっかりもらっちゃって、何も守君に返せてないんじゃないかって。…こんな幸せでいいのかなって」

 「…里恵は幸せになっていいんだよ。…いや、俺が幸せにしてみせるから」


 …だって、里恵にはずっと笑っていてほしいから。大好きなお寿司を前にして瞳をキラキラさせながらの満面の笑みも、俺が揶揄ったときの照れたようなはにかんだ笑みも、今みたいに目を細めて幸せそうにしている笑みも、全部が好きだから。だから、守りたい。この笑顔。


 「…なら、私が守君を幸せにするよ。きっと、そういうのがいい夫婦とかってなるんだよね?」

 「ははっ、確かにそうかも」


 …里恵がそう言ってくれたのは初めてだったよな?でも、うん。同じ気持ちなら、嬉しいよ。

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