第106話

 そうして近くにあった公園のベンチに並んで腰掛けた俺たち。日曜日だということもあって、割と多くの子供たちが遊んでいる。


 「…守君はさ、どうして私を好きになってくれたの?」

 「…う〜ん、正直いつからなのかはよく分からないんだ」

 「えっ!…そう、なんだ」


 …最初は可哀想な女の子だって思ってた。目を離したらすぐにでもまた死のうとするんじゃないかって。それを止められるなら、俺が家に押しかけるような面倒な人だと思われても構わないって。…それでも。


 「…俺が里恵を笑顔にしたいって、そう思ったんだ。この世界に絶望してるような女の子に、まだまだ楽しいこともたくさんあるんだって伝えたかったんだ」


 …そうだ。まだこのときは里恵のことを下に見てたときだ。俺がやってって。


 「…それなのに、里恵には唯一無二の親友がいるんだもん。俺なんかよりも志多さんの方が里恵も笑顔にできるんじゃないかって思ってさ」

 「あ〜!だからあの時、もう話さないとかって塩対応になったのか!!…そんなこと言われて、悲しかったんだよ?」

 「…ごめんごめん」


 …俺も、そのときは自分に無理矢理言い聞かせてたんだっけ?男の俺が里恵の側にいるよりももっと相応しい人がいるはずだって。


 「ん。今はもうそんなに気にしてないよ?だって、過去のことを気にするよりも今が充実してるんだもん」

 「…そっか。ずっと真っ直ぐ俺と向き合ってくれた里恵がいたからだね?」


 俺だけだったら絶対にこんな関係になることなんてなかった。他の友達と一緒の方が里恵も幸せだと勝手に決めつけて距離をとって、好きだって気持ちにも気づかないでそれまでの日常に戻ってた。


 「…私はただ自分のわがままばっかり言ってただけだよ。守君の優しさに甘えて、こんなチャンスはもう二度とないだろうからって。好きな人が何でも聞いてくれるなんて夢みたいな環境で、いつかそれが無くなっちゃっても思い出で寂しくないって思えるように…」

 「それでも、嬉しかったんだ。…一緒にいたいって言ってくれた。名前で呼んでほしいって言ってくれた。それに、えっちなこともしたいってね?」

 「…そうだよ?それなのに、ヘタレてる守君は未だに手を出してくれないんだから」


 …なっ!?返された、だと!?てっきり恥ずかしがって黙り込んじゃうかと思ったのに、カウンターを仕掛けてきた。


 「…それは本当にごめん。でも、そういうのはまだまだ段階を踏んでがいいな。ちゃんとしたデートもまだしてないし、それなのに先に体の関係になるのはちょっとね?」


 …本当は元カレのことを引きずってるのかと思って避けてたんだけど、俺がヘタレなのも間違いはないと思うし。…初めての彼女で俺もいっぱいいっぱいなんだよ。

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