第98話

 「守君?もういいよ?」


 ちょうど朝食の準備ができたころ、タイミングを合わせたように里恵が部屋から出てきた。そんな里恵が着てるのは真っ白なワンピース。…まるでお姫様みたいと思った。綺麗だよ?可愛いよ?…そんな陳腐な褒め言葉じゃきっと足りない。


 俺がそんな風に見惚れていると、里恵はテーブルに並んでいる朝食を驚いたように見つめた。


 「…これ、どうしたの?守君が作ってくれたやつ?」


 うん、と答えようとして俺は少し考えた。…これ、俺が作ったって言えばどんな味でも美味しいって言ってくれるんじゃないかと。もちろんそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、どうせだったら里恵の本心が知りたいなと。


 「…あ〜、実はね?俺が食べたいってお母さんに頼んだやつなんだけど、もしかして里恵は好きじゃなかった?」

 「へっ?…そうなの?そんなことはない、けど」


 それでもまだ少し納得できてないのか、ジッと料理を見つめている。


 「あらあら〜、こんなところで話しててもあれだし〜、早速食べちゃいましょ〜?」

 「…うん。いただきます」


 里恵はそう言ってトーストに齧り付いた。…感想を聞きたいけど、下手に俺がそんなことを聞くわけにもいかないし。


 「それで〜?どうかしら〜?」


 そんな俺の思いを汲み取ってくれたのか、お母さんが里恵にそう聞いてくれた。…頼んだりもせず急に押し付けるようになっちゃったけど、お母さんは話を合わせてくれた。すごくありがたいと思う、けど、もしも美味しくないって思われたらそれがお母さんのせいってことになっちゃうのかな?


 …いや、どんな酷評されても最後はちゃんと俺が作ったって伝えればいいだけのことか。率直な感想だけ聞ければ十分だしね。


 「美味しい。…けど」


 けど。…やっぱり何か不満があるんだよね?里恵の口に合わなかったのかな?それとも、朝はパンの気分じゃないとか?


 「…これ、絶対に守君が作ってくれたやつだよね?いくら何でもそれくらいちゃんと分かるよ。どうして騙そうとしたの?」

 「…ごめん。俺が自信なかったんだ。里恵に喜んでもらえる」


 …そうだね。俺は里恵に嘘を吐いたことになっちゃうんだ。そこまで考えが回らなかったけど、確かに嫌になるのも無理はない、よね?


 「…別に怒ってないけど。…ただ、私が言いたいのは…守君が作ってくれたものを私が見抜けないわけないでしょ?ってこと!!もうこの話おしまい!」


 少し顔を赤くして里恵はそっぽを向いてしまった。…これは、照れてるだけ、なんだよな?

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