第95話

 「えっ!?…ま、守君!?」

 「…んぅ?里恵?おはよ」

 「うん、おはよう。……って、何でここにいるの!?」


 次の日の朝、そんな声で俺は目が覚めた。するとあれから姿勢を変えたのか、里恵と抱き合うような格好をしていて、目の前には里恵の顔があった。…幸せだなって感じる。


 だけど、里恵はまだ戸惑っているみたいで、俺もつい意地悪したくなってしまった。…だって俺がこうしてるのは里恵のためなんだよ?ちょっとくらいならからかってもいい、よね?


 「…えっ!昨日あんなことまでしたのに、覚えてないの?…俺も初めてだった、のにな」


 あんなことは添い寝で、初めてはお泊まり。…うん、嘘は言ってないよ?ちょっとだけ誤解されそうな言葉を選んだだけで。


 「えっ!?ウソ!……どうしよう、思い出せない。……ぐすっ、せっかく、大好きな人と、守君と、ヒグッ、えっちなこと、でぎだのに。…なんで、おぼえで、ないの!!」

 「ちょっ、里恵!?落ち着いて。俺の伝え方が悪かったから!」


 俺はほんの少しの軽い気持ちだったけど、里恵は涙を浮かべ始めてしまった。…今のは俺が悪かったな。確かに吐いていい嘘じゃなかった。里恵は俺との初めてを自意識過剰じゃなきゃ、楽しみにしててくれたはずなんだ。…それを、その気持ちを蔑ろにするような冗談は、言うべきじゃなかった。


 「…俺が軽率だったよ。ちょっと舞い上がりすぎてたのかも。こうしてお泊まりするのもだし、その、す、好きな人と添い寝なんて、それこそ俺にとってはなことだったんだ。…紛らわしい言い方してごめん」

 「…ほんと、なの?私が守君としたえっちなことを覚えてないんじゃない?」

 「うん。まだえっちなことはしてないよ?」

 「…なら、良かった!」


 里恵はそう言って笑顔を浮かべた。…もうこれ以上里恵を悲しませないようにしよう、そう思ってるのに、なぜか里恵にいたずらしたくなっちゃうんだよな。


 …里恵の笑った顔が見たい、照れた顔が見たい、拗ねた顔も見たい。だけど、涙は見たくない。悲しんだ顔なんて、絶対にさせちゃダメだ!


 …そのはずなのに、里恵と一緒にいると俺の中の理性が仕事をしなくなる。自分の欲望を抑えきれなくなる。


 「……じゃあ、これは何なの?」

 「なっ!?そ、それは…」


 …ここに来て里恵に大きな爆弾が見つかってしまった。何で俺は来る前にあんなのを買っていたんだ!?バカか?バカなのか!?


 「ちがっ!それは」

 「…なんてね?私も揶揄からかっただけだよ?だって使われた痕跡もないし」

 「…えっ?」

 「ふふっ、それとも、今日使う?せっかく買ったんだもんね?…私は守君にならいいよ?」

 「ぐっ、使わないよ!…今日はせっかくなら里恵を家に招待しようと思ってるんだ」

 「ほんとに!?じゃあ行く!!」

 「うん。まぁ、1時くらいに来てって言われてるからね」


 …ほっ、なんとか里恵の意識をあの爆弾から逸らすことができた。…昨日の俺は何を考えてあんなのを買ったんだっけ?


 「…なら、それまではえっち、する?そのゴムも使って」

 「だから、しないってば!」


 …本当になんでこんなゴムなんて買ったんだよ!?

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