第90話 ★
〜里恵視点〜
次は私が選ぶ番です。…さて、どうしましょう?普段なら迷わずクマさんハンバーグ一択ですが、守君に子供っぽいって思われないでしょうか?
そんなことで守君が私を嫌うはずがないって分かっているんです。…それでも、好きな人には良く思ってもらいたい。私はほんの少し背伸びして普通のハンバーグを選びました。
それなのに…。お母さんはまだ奥の手を隠していました。…最後の仕上げ?守君がお手伝い?…ズルいです!後出しでそんなオプションを付けるなんて!そんなの、そっちの方が何倍も、何十?何百?…いや、何千倍もいいに決まってるじゃないですか!?
…だけど、今さら変えるなんて優柔不断だと、浮気性だと思われないでしょうか?…もし、守君にそんな風に思われたら?私が守君のことも飽きたら捨てるんじゃないかって思われたら?…それだけは絶対にダメです!
…私の考えすぎ、でしょうか?きっとそうなんでしょう。でも、少しでもその可能性があるなら、守君に心配かけちゃう可能性があるなら、私はハンバーグを我慢します。
そんな風に半ば諦めて守君の方を見ると、表情が強張っています。そして最後のカケラを持った手も震えています。
…あぁ、守君も失敗が怖いんだ。私もさっきまで同じ気持ちだったからか、守君の気持ちがよく分かります。
私はそんな守君を支えてあげたいと強く思いました。…そういえば、守君が弱みを見せてくれたのはこれが初めてかも?いつもは私ばっかり支えてもらって、隣に並び立ちたいとは思ってもそんな機会はありませんでした。
大丈夫だよ。ただそれだけを伝えたくて。…だけど守君は私がたった一言そう言うだけで手の震えもピタッと止まって、失敗した私と違ってちゃんと成功させていました。
…やっぱり守君はすごいです。きっとどんなことも全部をうまくこなしちゃうんでしょうね?…私なんていてもいなくてもきっと同じ。守君は一人で何でもできちゃいます。…私と同じように失敗してくれたら良かったのに…。そんな風に考えちゃう私がイヤになります。
…それなのに。守君は私のためを思って作ってくれたなんて。そんな風に気にかけてもらえて嬉しくて。私はお礼を言ってすぐにハンバーグを受け取りました。
それは普段と同じはずなのに、妙に輝いている気がして、ほんのちょっとだけ食べるのがもったいないような気がします。…それでも、冷めちゃうとそれこそダメなのですぐに食べ始めます。
…やっぱりいつもの安心するような味です。それでも普段よりちょっと美味しく感じるのは守君の愛情も入っているから、かな?
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