第87話 ★

〜里恵視点〜


 「ただいま〜!」

 「お帰りなさい〜。今日の晩ご飯、里恵の好きなのにしようと思うけど、どうする〜?」


 みんなとファミレスで別れた後、私はそのまま家に帰ってきました。そこでお母さんにそんなことを聞かれたけど、自分で話していて思ったことがあったんです。…私だけ守君に甘えすぎてるんじゃないかって。


 「…ねぇ、お母さん。私にもできる簡単な料理、教えてくれる?」

 「あらあら〜。守さんにでもあげたいのかしら〜?うふふ〜、分かったわ〜。なら…ハンバーグにしましょう〜?」

 「…ハンバーグ?それって簡単に作れるの?」


 私の中で簡単な料理といえばカレーとかが一般的だと思ってたので驚きました。ハンバーグって、もっと複雑なんじゃないの?それとも、お母さんにとっては簡単ってこと?


 「そうね〜。そこまで簡単、なんて言うつもりはないけど〜、そんなこと言ったらお湯を注いで待つものか、レンジが料理してくれるものくらいしかないわよ〜?」


 …うっ、それを私の料理として守君に出すのはちょっと。もちろん、美味しいことは間違いないんだけど、そういうことじゃないっていうか。


 「…それは、ちょっとヤダ」

 「でしょ〜?今の世の中、失敗しないことを目指すならそれで十分なのよ〜?じゃあ、どうして料理するのか、分かるかしら〜?」

 「えっ?…え〜っと、安いから?」


 私がそう聞くとお母さんはゆっくりと首を振りました。そして、諭すような優しい口調で続きを話しました。


 「…確かに大人数ならそれもあるだろうけど、私たち家族の分だけならそこまで変わらないのよ〜。一人なら逆に割高になることだってあるのよ〜?そんな中料理するのは、気持ちがこもるから、だと私は思うわ〜」

 「…気持ち」

 「そうよ〜?あなたが料理したいって思ったきっかけは何なのかしら〜?」


 …そうだ。私は守君に私の手料理を食べてほしいんだ。守君へのお礼ってこともあるけど、やっぱり私のため。本当にお礼ならお店の料理の方が美味しいと思うし。


 「…うん。私、守君に私が作った料理を食べてほしい!」

 「そうよね〜。なら、ハンバーグとかが適任じゃないかしら〜?愛情をこねこねできるハンバーグが〜。…愛情を包み込む餃子とかでもいいんだけど〜、残念ながら皮がないのよ〜。今から買いに行ったんじゃ守さんも来ちゃうだろうし〜。…うん、やっぱりハンバーグね〜」


 そうして私は初めて自発的に料理に挑戦することになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る