第83話 ★

〜里恵視点〜


 守君が見えなくなるまで私は背中を見つめていました。少しずつ離れていく守君を追いかけたい衝動に駆られますが我慢します。このまま追いかけて、追いついて、呼び止めて。…夢だと分かっていてもそんなことはしたくありません。


 私のことを第一に考えてほしいという気持ちはあります。守君が他の女の子と中良さそうに話したりしていると嫉妬もしちゃいます。…それでも、守君を束縛したりはしたくありません。きっと、初対面のはずの私を全力で助けてくれた彼だったから私も好きになったのに、その良さを邪魔したくはないんです。


 そして守君が完全に見えなくなりました。これで完全に夢も終わり。後は現実に戻るだけ…なんだけど、どうやって?


 …夢から覚める方法が分かりません。確かにこの夢は幸せだけど、現実から抜け出したいなんて思ってはいないはずです。


 「おめでとう、りーちゃん!!」

 「はひゃっ!?ぶ、部長!?それにみんなも」


 私がそんな風に考えていると、意識の外から部長たちが話しかけてきました。…また守君と二人きりの世界に入り込んでたけど、夢でそんなにリアルなことってあるのかな?…本当に、夢じゃない、とか?夢かどうか確かめる方法なんて、昔から一つしかないよね?


 「…誰でもいいから、私のほっぺ引っ張って」


 私がそう言うと、みんなは一瞬目を見合わせて、すぐにニマッと笑った。そして、全員が近づいてくる。…あれ?こういうときって、一人なんじゃないの?その圧に負けて私は少し後退りした。


 「ちょ、ちょっと待って!一人!一人で十分だから!!」

 「良いではないか、良いではないか」

 「良くない〜〜!!」


 私はバッときびすを返して駆け出した。…端的に言えば逃げました。…だって、怖かったんだもん。


 「…ん、逃げた」

 「ね〜?どする?」

 「当然、追うよ!」

 「えと、その。…はい」

 「…はぁ、私にはこうなった先輩たちを止められないし、せっかくなら私も里恵と鬼ごっこしよっかな?」


 そうしてみんなが私を追いかけてきました。…ちょ、ちょっとストップして!もう分かった。ここが私の思い通りにならない現実世界だって理解したから、もう止まって!!


 私は必死に逃げました。行くあてなんて全くありません。それでも、足を止めるわけにはいかないのです。


 「…りーちゃん、どこ行っちゃったんだろう?」

 「…ん。ゴンザレス、分かる?」

 「…う〜ん。里恵のことだから、近くには居ると思うんだけど」


 ギクッ!ば、バレてる…。…だって、せっかくなら私も楽しみたいし。隠れ鬼みたいで、ちょっと楽しい。…けど、こんなに走ると筋肉痛になりそうだな〜。

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