第78話

 里恵が寝たのを確認した俺はどうしようか迷っていた。…俺はどこで寝ればいいんだろう?と。お母さんは一緒にとか言ってたけど、冗談かもしれないし、流石に同じベッドで、なんてことはないだろう。ここは床とかが正解かな?


 そう思った俺は床に横になった。そして思った以上に疲れてたのか、すぐに眠気がやってきて夢の中へ旅立っていった。


 「…あらあら〜。ちゃんとベッドで寝ないと風邪ひいちゃうわよ〜」


 …お母さんの声がどこからか聞こえてきたような気がするけど、夢現ゆめうつつの俺にはそれが夢なのか現実なのか分からない。俺は完全に夢の中の住人になった。


 「ピキャーーーー!!」


 俺が起きたのは日付が変わったくらい。そんな横からの絶叫に俺の意識は完全に覚醒した。…って、何で里恵と同じベッドに寝てるの、俺!?昨日、確かに床に寝たよな!?それより、里恵の誤解を解かないと!!


 だけど里恵は目を閉じていて、夢の中でうなされているようだった。


 「里恵!?しっかりして!どうしたの!?」


 普段と明らかに違う様子の里恵。今までに見たことないくらいの苦悶の表情を浮かべている。辛そうなのに、俺には原因も治し方も、痛みを和らげる方法さえも分からない。…俺は、無力だ。


 慌てて俺はどこかの部屋で寝てるはずのお母さんかお父さんを探すために片っ端の部屋からノックした。…もし寝てたらかなり迷惑になるよね?それでも俺の最優先は里恵だから。


 「あら〜?守さん?」

 「!お母さん!!ど、どうしよう!里恵が、里恵が急に苦しみ出して!でも、俺は何もできなくて!!」

 「…落ち着いてちょうだい〜?あの子から聞いてないのかしら〜?あれ、いつものことよ〜?筋肉痛」


 …筋肉、痛?それじゃあ、心配する必要もそんなになかったの?


 「よ、良かった。里恵に何事もなくて…」


 安心した俺は急に力が抜けてその場に座り込んでしまった。


 「あらあら〜。大丈夫かしら〜?」

 「あ、はい。お騒がせしてすみませんでした」

 「気にしなくていいのよ〜。あら、そうだわ〜。もしかしたら、抱きしめてあげれば痛みも和らぐんじゃないかしら〜?」

 「…分かりました。それで少しでも里恵が苦しくなくなるなら」

 「…あらあら〜。里恵は愛されてるわね〜」


 里恵のために俺にできることなら全部やってあげたい。あんなに苦しんでる里恵は見たくない。俺はすぐに里恵の部屋に戻った。


 そして早速抱きしめよう…抱きしめ…抱き!?…そうじゃん!里恵は下着姿だったんだ。ぐっ、俺はどうすれば?


 …なんて葛藤も辛そうな里恵の表情を見たらすぐに吹き飛んだ。俺は里恵を優しく、でもしっかりと抱きしめた。側にいるよ、と伝わるように。


 それからすぐに里恵の表情は幾分か和らいだように見えたのは、俺の希望による幻覚なのかな?

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