第77話

 俺は里恵の家に戻ってきていた。そのまま里恵の部屋に向かうと、里恵はコロンと横になっていた。


 …このままじゃ風邪ひいちゃうよね?そう思った俺は里恵をそっと持ち上げてベッドの方へ移動した。そしてゆっくり寝かして俺も寝巻きに着替えようとその場を離れようとしたとき、俺の服のすそを何かが掴んだ。…なんて、里恵しかいないんだけどね?


 「…いっちゃ、ヤぁ」


 里恵はまだ眠いのを我慢してるのか、トロンとした目でそう訴えかけてきた。


 「…どこにも行かないから大丈夫。着替えだけしてすぐ帰ってくるから」

 「…んぅ、着替え、しなきゃ」


 里恵は俺の着替えという言葉に反応したのか、掴んでいた手を離した。そしておもむろにその手を自分の腰付近に持っていき、ゆっくりと服を捲り上げていった。…って、そんなジロジロ見ていいはずがないだろ!俺は慌てて部屋を飛び出した。


 そしてパパッと着替えを終えた俺は、未だにドキドキしてる心臓を落ち着かせようと深呼吸していた。10分くらいそうしてたかな?そろそろ部屋に戻ろうと思って里恵の部屋の扉をノックした。しかし、返事がない。…拗ねちゃったのかな?俺が多少強引に出ちゃったから。それとも、また寝てる?眠そうだったもんね。


 「里恵?入ってもいい?」


 俺はもう一度ノックしてそう声をかけた。だけどやっぱり返事がないから、俺は里恵の着替えが終わってると信じて扉を開けた。すると、里恵はやっぱりベッドの中にいた。…ピンクの下着姿で。


 「ちょっ!り、里恵さん!?」


 俺は思わず大声で叫んでしまった。それに応えるように里恵の瞼がゆっくりと持ち上がり、俺と目が合った。


 「…あれ?守君?私、どうして?…〜〜〜ッ!?」

 「誤解だ!俺は何もしてない!!」


 里恵はまず俺の名前を呼んだ。そして周囲を見渡して、自分の状況に気づいたのか、一気に頬を真っ赤に染めた。自分のベッドの上で下着姿になっていて、側には俺1人。誤解されても仕方ないとは思うけど、俺は無罪なんだ!


 …だけど、俺も頭が真っ白になっていて、それ以上の言葉が出てこない。と言うよりも、誤解だと叫ぶ方が余計に怪しいんじゃ…?


 「…守君になら、いいよ?」

 「なっ!!?」


 この日、俺は童貞を卒業した。完


 …。


 ……。


 ………。


 …………なんて、するわけにはいかないだろ!?付き合って初日でそういうことをするなんて、いくらなんでも早すぎる!


 「…里恵がそう言ってくれるのはありがたいけど、俺たちにはまだ早いと思うんだ。それに、今日は疲れてるでしょ?ずっとここにいるから、寝よ?」

 「…うん。守君がそう言うなら、分かった」


 里恵はそれだけ搾り出すとすぐにまた横になって寝息を立て始めた。これでどうにか一件落着、じゃない!せめて何か着てほしかった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る