第75話

 「…っと、急に色々聞いちゃってごめんね?今日はありがと」


 希ちゃんは立ち上がった。…時間切れ、なのかな?このまま帰していいのかな?俺に何かできることはあるのか?


 「…うん、またね」

 「…うん。さようなら」


 俺の中の何かが、このまま別れちゃいけないと訴えてくる。だけど、どうすればいいのか分からない。


 …それがどうした!後悔を残さないようにするんだろ?俺の考えすぎで何もなければ変な人って思われるだけだ。


 「まぁ、俺はもう希ちゃんのことも大切に思ってるから、もし何かあれば連絡して。これ、俺の個人情報」


 俺は紙にRAINのIDを書いて渡した。…思えば、最初のきっかけもメモ書きだったんだよね?そうしてここまで繋いだ縁をまた強くするのは、やっぱり同じメモ書きしかないよね?


 「…どう、して?こんなのもらったら、連絡しないわけにはいかないじゃん。もう、私は守君に、会わないように、しようって。…それなのに!」


 …やっぱり。最近はなぜか嫌な予感ばかり当たってるような気がするな。そのおかげで成功してるところもあるから強くは言えないんだけど…トラブル起こりすぎじゃない?呪われでもしたの?


 「え〜っ!?人生の半分をくれるんじゃないの〜?」

 「…あははっ、そう、だったっす!守お兄さんからは逃げられないっすね!」


 希ちゃんはそう笑った。また男の人が好きな自分の役に入り込んだみたいだけど、今度は前よりも感情が分かりやすくなってた。


 「うん、そうだよ?希ちゃんが俺の前から何も言わずに消えたら、絶対に見つけ出すから。なんてね?…でも、希ちゃんにもあるでしょ?そういう、何が何でも守りたいものが。…側にいてほしい人が」

 「…うん。それなら分かる。……私にも、ちゃんと大切なもの、あったんだ」

 「…ね?」

 「うん!…うちの大切には守お兄さんもちゃんと入ってるっす!」


 まるで憑き物が落ちたかのような晴れやかな表情で希ちゃんはそう言った。そして、迎えに駆けつけていた希ちゃんのお母さんの手をしっかり握って帰っていった。


 希ちゃんはこれできっと大丈夫な気がする。何かあればちゃんと連絡してくれるだろうし、また一緒にバスケできるようにしたいな。今度は里恵やかなかなさんたちも誘って。


 っと、次は里恵と一緒に家に帰って、母さんに泊まってもらってもいいか聞くんだったな。なんだかんだで楽しみではあるんだよな。…緊張して寝れるか分からないけど。…今夜は寝かせないって展開にはならない、よな?俺の理性はちゃんと仕事してくれるよな?


 「ただいま。じゃあ、ぃ、く?」

 「…す〜、守君。…えへへ〜」


 俺が里恵の部屋に戻ると、試合での疲れもあったのか、里恵は目を閉じていた。無理矢理起こすのは可哀想だし、今日は諦めるかと思ったけど、さっきまでのワクワクした様子の里恵を思い出して考えを改めた。俺のせいで待たせちゃったんだから我慢してほしくない。


 俺はお母さんに一度シャワーして戻ってくることを伝えて1人で里恵の家を出た。

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