第74話

 「…やらなきゃ成功はない、か。…ねぇ、私はやらなきゃ失敗はないって思ってるんだけど、守君はどうなの?」

 「確かにね。だから、失敗するのと後悔するの、どっちの方が辛いか考えるんだ。今日だって、あのまま希ちゃんを見捨てるときっと後悔してたから」


 …だけど、本当に大切なことって考えるよりも先に行動しちゃうんだと思う。俺はいつもそれで周りの人に助けてもらってるから、もし希ちゃんが何かに挑戦して失敗したら今度は俺が助ける。


 「それでも!…どうしようもないことってあると思うの。いつまでも、何も知らない子供じゃいられないでしょ?」

 「…うん、やらなきゃいけないことはあるよ。それは疎かにしちゃダメだけど、だからこそ、やりたいことは全部やって、未練を残さないようにしたいなって俺は思う」


 あの時こうすれば良かったってことはずっと残るけど、あれをしなきゃ良かったって、案外すぐに気にならなくなるんだよな。


 「…未練は、どうしても残っちゃうよ。だけど、変えなきゃいけないから。…私が変わるのが一番楽だから」


 その言葉を聞いて、ようやく分かった。どうして希ちゃんの本心が分からなかったのか。…俺と話してるときも自分自身を偽ってたんだ。きっと今の希ちゃんが素なんだろうな。


 「どれだけ変わろうと思っても、変わらない部分はきっとあるよ。それに、変えられないものもあるしね。…希ちゃんにとってのソレは何?」

 「…変わらないもの、変えられないもの、か。そんなの、本当に私なんかにあるのかな?」


 希ちゃんは気づいてないのかな?たとえどんなことをしても、それでも側にいてくれるんじゃないかって思える家族がいることを。今も俺たちのやりとりを静かに聞いてくれてる存在がいることに…。ちょっと周りを見れば分かるはずなのに。


 「もちろんあるはずだよ?生きてる限りはいいことだってあるって言うでしょ?それって多分、自分の大切なものに気づくってことなんじゃないかな?」

 「…大切なものに気づく、か。…どうすれば気づけるの?」

 「…そうだな。…周りを見ればいいと思うよ?本当に大切なものって、無自覚でも周りに集めてるものだから」


 俺がヒントを出すと希ちゃんは素直に周りをキョロキョロと見回した。どうしてか分からないけど、希ちゃんは今不安定なのかな?誰かにすがろうとしてる?


 「…何も、ないよ?私の大切なものなんて」


 …心が弱ってる彼女は迷子の子どものような表情でそう言った。どうすれば、気づいてもらえるんだろう?希ちゃんを大切に思ってる人 両 親 の存在に。

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