第73話

 「…あなたがもしかしてまー君かしら?」

 「えっ?あ、はい。お、私がまー君こと杉田 守です」

 「やっぱりね。あなたのことは華菜ちゃんから聞いたわ。…こちらこそ、ごめんなさいね。それと、ありがとう」


 内心ものすごくビクビクしてた俺は言われた意味がすぐには分からなかった。思わず顔をあげるとさっきまでとは違って穏やかな表情で俺を見る希ちゃんのお母さん?がいた。


 「えっと、どうして謝るんですか?」

 「あなたに謝らせてしまったから。…私も親だから、この子がバスケ好きなのは知ってるつもりよ。きっとまだ続けたいって駄々こねたんじゃないかしら?」


 …すごい。全部当たってる。これが親なのかな?


 「それに、ここまで運んで私たちに連絡までしてくれた。だから、ありがとう」

 「…いえ、当たり前のことをしただけですから」

 「当たり前のことを当たり前にできる人って、案外少ないのよ?…例えば、そうね。疲れ果てて倒れる前に休むのは当たり前だと思わない?」


 そう言って希ちゃんの方へ視線を向けた。俺もつられて同じ方を向くと気まずそうに希ちゃんはそっぽを向いた。


 「確かに、そうですね」

 「でしょ?遊び疲れて倒れて人に迷惑をかけるなんて…。全く、うちの子は」

 「うぅ。ごめんなさい」

 「はぁ、仕方ないわね。もう一回ちゃんと感謝と謝罪しておきなさい。帰るわよ」

 「…うん。守君、それから守君のご両親の方々、本当に申し訳ありませんでした」


 希ちゃんはそう言って深々と頭を下げた。


 「ちょ、頭を上げて!俺は気にしてないからさ。また、バスケしよ?」


 俺がそう言うと、顔を上げた希ちゃんはフルフルと首を振った。


 「…もう、バスケは辞める」

 「…えっ?今日のこと気にしてるの?そんなの気にしないでいいのに」

 「そうじゃない。…もともと、辞めるつもりだった。最後の相手が守君で良かった」


 …最後?希ちゃんはバスケが好きなんじゃないの?バスケ部にも所属してるし。


 「…冗談?やっぱり初心者の俺とは一緒にバスケしたくないって?」

 「そうじゃないよ。…やっぱり、私ももう高3だし、少し早く就職とかを考えるだけ」


 …やっぱり、年上だったんだ。かなかなさんと友達っぽかったし、不思議ではないんだけど…お兄さんなんて呼ばれてたんだよね?


 「…そっか。それなら仕方ないね。…うん、じゃあ、また機会があればやろうね?」

 「…うん。でも、本当に初心者なの?最後、見てたよ?もう、才能の違いなんだろうね」

 「はは、どうだろ?俺が希ちゃんに勝つにはあれしかなかったからな。…でも、やらなきゃ成功することは絶対にないよ?」


 俺自身ももう二度とあんな奇跡は起こせないと思う。

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