第72話

 「さっ、早く行こっ?」


 お母さんが戻って2人きりに戻ったあと、大きな荷物を背負った里恵がそう言った。俺も早く行きたいけど、希ちゃんをそのまま放置しておくわけにはいかないよね?


 「まぁまぁ。まずはかなかなさんがどうなったか聞かないとだから、ちょっと待ってね」

 「…そ、そうだったね。うん、待ってる」


 里恵がそわそわしてるのが伝わってくる。そんなに慌てなくてもちゃんと連れてくのに、そんなに気になるのかな?度々スマホで時間を見ては左右にゆらゆらしてるけど、無意識なのかな?…まぁ、可愛いんだけどね?


 そんな里恵を観察してるとピンポンとインターホンが鳴った。それに真っ先に反応したのは里恵だった。すぐに立ち上がった…ところで冷静になったのか、困った顔をして俺を見た。


 「ぷっ、里恵どうしたの?」

 「〜ッ!…な、何でもない」


 俺に指摘された里恵は恥ずかしそうに頬を染めてプイッと視線を逸らした。そしていそいそと座り直した。


 「じゃあ、ちょっとだけ待ってて?すぐに終わらせて、一緒に家に行こうか」

 「…うん」


 まだ顔は逸らしたままだけど、なんとか里恵に返事をしてもらった俺は下に降りていった。当事者の俺がちゃんと話さないとだろうしね。じゃなきゃここまで待ってた意味がない。


 「どれだけ心配したと思ってるの!!」


 扉越しでも聞こえてくるような女性の声。きっと希ちゃんのお母さんなのかな?心配する気持ちはよく分かる。


 俺はなるべく音を立てないようにそっと扉を開いた。そこにはお母さんとお父さん、希ちゃん、それに知らない男女が1組。きっと彼らが希ちゃんの両親なんだろうけど、男性の方は車椅子に座っていた。


 「急に倒れたって、もう会えないんじゃないかって!…なんで。なんでそんなことしたの!!」

 「…ごめんなさい」

 「ごめんじゃないでしょ!…あなたは私の、私たちの生きる希望なの!生きる理由なの!!…そんなあなたに何かあったら…うぅっ」


 …そうして希ちゃんのお母さん?は泣き出してしまった。その原因の一端は俺にあるんだと考えたら、なんて言葉をかければいいのか分からない。…だけど、ここで逃げ帰るわけにはいかない!何のためにここに残ってるのか分からなくなるから。


 「あの、…すみません!バスケしようと提案したのは私なんです!」


 俺は深々と頭を下げた。どんな罵詈雑言が出てくるのか分からないし、どんなことをされるかも分からない。それでも、その全てを俺は受け止めなきゃいけないんだ。


 「…そう。」


 どれだけ経ったのか分からないけど、俺のその言葉の次に声を発したのは希ちゃんのお母さん?だった。

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