第71話

 「…えっと、着替えとかもないしさ?バスケで汗かいて、流石にそのまま寝るのはちょっと」

 「…むぅ」


 …ほっ。どうにか里恵に納得してもらえそうだ。そこで俺はもう一つの目的を思い出した。かなかなさんに連絡してもらわないと!


 「それでさ、一つお願いがあるんだけど…」

 「…私もお願い、ある」

 「お願い?どうしたの?俺にできることなら何でもやるよ?」

 「…先に守君の方から言って?」


 …どうしてだろう?急に嫌な予感が膨らんできたんだけど。…まさか、それでも泊まってけなんて言わない、よね?


 「…あ、ああ。それじゃあ、かなかなさんに聞いてほしいんだ。彼女…藍野さんのご両親について連絡が取れるかって。倒れてすぐにここまで連れてきちゃったから伝えなきゃいけないんだけど俺は分からないから」

 「それくらいなら大丈夫だよ。……これでよし!」


 里恵はスマホを操作して、おそらくかなかなさんにRAIN送ってくれたのかな?しばらくやり取りを続けて明るい表情でよし、と言ったからもう大丈夫なんだよね?


 「ありがとう。それで?里恵のお願いって何?」


 試合で活躍したお祝いもあるし、里恵を傷つけた責任もあるからあんまり無茶なことじゃなきゃ全部聞いてあげたいけど…。


 「うん、その…。私、守君のお家に行ってみたいなって」

 「家?いいよ?」


 ちょうど母さんにも早く連れてこいって言われたし、付き合い始めたから彼女として紹介できるしね。


 「ほんと!?すぐ準備するから待ってて!!」

 「えっ!?今から?」

 「もちろん!守君が泊まっていけないなら、私が守君のお家に泊まればいいだけだもんね!…もしかして、守君はイヤ?」

 「…分かった。だけど、お母さんと俺の母さんがいいって言ったらね?」


 父さんとお父さんは…大丈夫かな?母さんは断ってくれるのかな?けど、ここまで言ってくれるなら里恵と泊まることは俺もイヤじゃないからいいんだけどね。…ちょっと早いような気もするけど。


 「うん!分かった!!」


 里恵はそう言って部屋を飛び出して階段を駆け降りていった。お母さんに聞きに行ったんだろう。…まぁ、お母さんなら許可するだろうな。


 案の定里恵はすぐに帰ってきた。…何かの紙袋を持って。


 「…それは?」

 「これ?お母さんが持っていきなさいって」


 …恐る恐る覗くと、その中身は明らかに高級だと分かるような羊羹ようかんだった。


 「…えっと、流石に受け取れないかな?俺も何も渡してないのに、一方的に貰うだけはちょっと」

 「あらあら〜。そんなこと言わないで受け取ってちょうだい?」


 そんな風に声をかけたのは、いつの間にか側に来ていたお母さんだった。


 「…そうは言われても」

 「守さんの気持ちも分かるわ〜。だけど、大人にも色々あるのよ〜。特に私は里恵の、娘の命の恩人の家族なんだもの〜。最初はきっちりしなくちゃ〜」

 「でも…」


 俺は自分がしたかったことをしただけで、恩人とかなんて思ってほしくない。普通の娘の彼氏として接してほしい。…まぁ、俺は里恵が最初で最後の彼女だからが分からないんだけどね。


 「それに〜。里恵のためでもあるのよ〜?相手方に好印象を与えるための秘策…なんちゃって〜?」

 「…分かりました。それならお受け取りします」

 「ええ、ぜひそうしてちょうだい〜」


 こうして里恵が俺の家に初訪問&初顔合わせが決まった。もしかしたら、初お泊まりもあるかも。

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