第70話

 「…里恵、聞いてくれる?」

 「…何?守君も私のことなんてどうでもよくなったんでしょ?」


 俺は里恵の部屋の前でそう呼びかけた。すると不機嫌そうではあったけど、ちゃんと返事をしてくれた。…俺は何をやってるんだ?俺の行動が間違ってるとは思わないけど、それで一番大切な人を傷つけた。


 「そんなことない!…里恵は俺にとって特別な女の子だから」

 「じゃあ何で!何で私に見せつけるようにお姫様抱っこなんてしてたの!…守君も、他の女の子にも手を出すの?それを私に認めてって?…ふざけないで!!」


 何かがドアにドンッとぶつかった。このままじゃダメなのは分かる。せめて、顔をしっかり見て話さないと。


 「…入るよ?」

 「!?来ないで!!」

 「…お願いします。話をする機会を与えてください」


 俺がそう頼み込むと少しの沈黙があった。今、里恵がどんな気持ちなのか分からない。俺に呆れているのか、怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。良い感情じゃないのは確かだけど、俺は正面から向き合いたい。…いや、向き合わなきゃいけないんだ。


 …それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?一分?それとも五分、十分は経ってるのかな?ギィと音がして扉が開いた。そして顔を半分くらい出した里恵と目が合った。…すぐに目線を逸らされた。


 「…入って」

 「…ありがとう」

 「か、勘違いしないでよね!話を聞くだけだから!…ハーレムなんて、やだよ」

 「里恵…。それは大丈夫だよ」

 「…ほんとに?」

 「うん。本当」

 「…それなら、良かった、のかな?」


 俺は何とか第一関門を突破した。このまま顔も見たくないと追い返される可能性もあったけど、どうにか話はしてくれるみたい。…里恵が優しい子で良かった。


 ドアのすぐ近くに落ちていた教科書には気づかないふりをした。…俺、今日で死ぬとかないよな?まぁ、最後の瞬間は里恵と一緒がいいけど、仲違いしたままなのはちょっと…。


 「…それで、話って何?」


 里恵はさっきまでよりも少しだけ落ち着いた声で話した。どうやら今すぐに死ぬことはないみたい。だけど、里恵の目元が赤くなっていた。


 …それが俺が里恵を傷つけた証、なんだよね?志多さんやかなかなさん、郷田さんと約束したのに…里恵を絶対に傷つけないって。


 「え〜っと、どこから話したらいいかな?」

 「最初から全部!」


 そう言われた俺は希ちゃんとの待ち合わせ場所に着いてからのことを話した。彼女が一人でバスケしてたこと、俺に対して誘惑してきたけど断ったこと、一緒にバスケをしたこと、そしてその途中で彼女が倒れて慌てて連れ帰ってきたこと。


 「…そっか。全部私の勘違いだったんだ。…ごめんね、守君。私、守君のこと、信じてたはずなのに…」

 「ううん、誤解させるような行動をした俺の方こそごめん。…里恵に、そんな顔させちゃってごめん」

 「…うん。はい!これでもうごめんはおしまい!ねっ?」

 「…そう、だね。うん、里恵がそう言うなら、分かった」


 こうしてどうにか里恵の誤解を解くことができて、めでたしめでたし。


 「…じゃあ、今日はお泊りだね!」

 「あっ!?」


 …なんかにはならなかった。ど、どうしよう。断る言い訳を何も考えてなかった!

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