第68話
俺は希ちゃんと向き合っている。
「…よく、覚えてるね」
あの事故で俺は一時的にヒーローと紹介されるようになった。だけど、両親だけははっきりと叱ってくれた。無茶なことはするな、大人を頼れ。それで助けられた命があったことも確かだけど、失われたかもしれない命も考えなきゃいけない、と。
その言葉は今でも俺の心に根付いている。だから、勇気と無謀の意味を履き違えるのをやめた。…それでも、考えるより先に体が動くことがあるけどね。
「…おしゃべりはこのくらいにして、そろそろ行くっすよ」
そう言って向かってきた希ちゃん。そんな彼女に俺ができることは…シュートを打つことだけだ!この一発だけでもいい。入ってくれ!
「…届け!」
「なっ!?」
そうして放ったシュートは山なりの軌道を描いて…リングにすら届かず落ちた。…やっぱり、そう簡単にはいかないか。里恵はすごいことしてたんだな。
そして攻守交代。バスケ部の希ちゃんを俺なんかが止められるわけもなく、あっけなく点を取られた。
また俺が攻める番になった。そしてシュートを放つ。俺が希ちゃんに迫るには、そうするしかないから。接戦しないと、希ちゃんはきっと自分の心を出してくれない。どうして俺を覚えてるのか、その理由すら知ることができない。
…そんな何を考えてるのか分からない状態で、頭から否定するのは、きっと違うと思うから。俺は知りたい。彼女の考えを、意思を、願い…希を!!
「…ふざけてるんすか?」
「いいや、そんなことないよ。…俺は全力で勝ちに行く」
俺のシュートは、今度はリングに当たって大きく弾かれた。そして希ちゃんの攻撃ターン。どうにか食らいつこうにも歴然とした実力差があって、あっさり追い抜かれる。
そして俺の攻撃ターンになった。俺はまた、すぐにシュートを打つ。バカの一つ覚えのようにただ繰り返す。
そのボールは再びリングにぶつかり、しかし、今度は真上に上がった。それが落ちる。ボールはリングの外周に当たり、カコンッと音を立ててそのまま落ちた。
「なっ!?どんどん近づいている?…偶然?」
そして攻守を交代した。依然として希ちゃんの方が優ってるはずなのに、ここで彼女がミスをした。ボールを取り逃がしてしまったのだ。
「大丈夫!?疲れてるんじゃ…?」
「そんなことない!それよりも、次はあなたの番でしょ!」
…希ちゃんは午前中に試合をして、それからここで練習もしてたんだ。疲れてるに決まってる。でも、それを認めてくれない。このままバスケを続けるんだと、心が伝わってくる。それが、限りなく嬉しい。
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