第67話 ★
〜希視点・回想〜
その次の日。海でのことがニュースになりました。それでも、パパのことはほんの少しだけで、同じ日の観光地の方での事故の方が大きく取り上げられていました。
それは、私と同じくらいの年の男の子が同年代の女の子を助けたことです。それが守お兄さん。…どうして私は助けてくれなかったの?どうして、パパが犠牲にならなきゃいけなかったの?私が、いい子じゃないから?
守お兄さんに対して、そんな八つ当たりにも似た感情が湧き上がってきたんです。全部、私のせいなのに、誰も怒ってくれない。私の心は誰かのせいにしないと壊れそうで、でも、私以外の誰も悪くなくて。そんなときに現れた
…それから時間が経って、表面上は穏やかな日常を過ごしていました。だけど、それは私が何も知らなかったから。ママがどんな仕事をしているのか、理解していなかったから。
ママがやっていたのは…水商売。それも、お金を払えばどんなことでもやるような、健全とは言い難いもの。私がそれに気づいたのは、クラスの男子に言われたから。きっと揶揄うためだけだったんでしょう。それでも、喉の奥に小骨が刺さったような感覚はどうしても残った。
…もちろん、ママを責めるつもりはない。立派に私を、そしてパパを支えてくれる自慢のママだ。だけど、周りはそうじゃない。私は卑しい人の子供だとされ、避けられるかワンチャンあるんじゃないかと寄ってくる人ばかりになった。その結果、私は人が信じられなくなった。
…だから私は私を封印した。一人称を私から男っぽい、だけど相手を不快にさせたりしない『うち』に変えた。自分の感情を排除して、相手に合わせてキャラを演じるようになった。…うちは私が作った人形。
そんなうちに残ったものがバスケだった。元々入っていたバスケ部の仲間たちは今までと変わらない態度で接してくれた。うちが私で居られる場所だった。私は余計にバスケにのめり込むようになった。
元々バスケが好きだったこともあって、練習時間にほぼ比例するかのように実力が伸びていく実感があった。プロ選手になれるかも、と本気で思っていたときもある。
…でも、そんな妄想も今日でおしまい。高校3年の練習試合。レギュラー陣は出さないという監督に無理を言って組み込んでもらったうちは努力でどうこうできない才能を実感した。プロになるには、才能もないとダメで、彼女みたいな人じゃなきゃダメなんだと思い知らされた。
それでも、悪いことばかりじゃない。あのニュースになってた守お兄さんと出会った。うちは彼にアプローチをした。彼が好きだから、なんてことは全然ない。だけど、有象無象にうちの初めてを奪われるくらいなら、彼の方が何倍もましだと思った。
だけど、彼に熱い視線を向けている人がいることに気がついた。うちは他人の恋人を取るような人にはなりたくない。きっとダメだろうなって思った。…それなのに、彼はやって来た。やっぱり、男はみんなそうなのかな?
うちはきっと守お兄さんにパパを重ねてたんだ。パパと同じように勇気のある人なんだって、理想を押し付けてた。現実なんて、いつも苦しいことばかり。
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