第65話
時間は午後7時。時間が迫っていることを理由にお泊まりを保留とした俺は指摘された場所まで来ていた。場所はバスケコート。いくら日が長くなってきたとはいえ、この時間は既に暗くなっている。そこには真剣な表情でボールをドリブルしている1人の少女がいた。その姿に声をかけるタイミングを見失った俺は、しばし彼女を見ていた。
「そこにいるのはだれ!」
「俺だよ。ごめん、声かけられなかった」
その鋭い声に応えるように俺はコートの中に入った。
「…あっ、守お兄さん?来て、くれたんすか?」
「もしかして来ないと思われてた?呼んだのは希ちゃんでしょ?」
「そうだったっす。やっぱり優しいっすね、守お兄さんは」
「…あはは、それで、どうしたの?初対面の俺を呼んだ理由って?」
どうしてだろう。やっぱり何か違和感がある。本心が見えないというか、どこか定型文を読んでるだけのような感じがするというか、自分の意志がないというか…。
「こんな夜に男女が
「…それって」
「えっちなこと、しよ?」
「…その前に、せっかくならバスケでもしてこうか?」
きっと本気で言われてたら俺もテンパっていただろう。でも、希ちゃんはそうは思ってないような気がする。彼女の本心を出すにはどうすればいいか、それはきっとバスケだと思う。
「…バスケ?いいっすけど、もしかして汗かいてる方が興奮するタイプっすか?」
「…あ、あはは」
…何故か最大に勘違いされて、俺も自分の頬が引き攣るのを感じた。けど、下手に何かを話してバスケをやる気が無くなっても困るから訂正もできない。
「まぁ、早速やろうか?」
「分かったっす。守お兄さんが先攻でいいっすよ」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
俺の目的のためには彼女に本気を出してもらうしかない。だから、ある程度は善戦しないといけない。授業以外ではバスケなんてほとんどやってない俺が、バスケ部に青春を捧げているような彼女相手に。
「…じゃあ、行くよ?」
「いつでもどうぞっす」
その言葉を合図に俺は駆け出した。目線は相手に、それに合わせて言葉を交わす。心理戦で探っているように、それでも自然に。
「そういえば、俺の名前を知ってたみたいだけど、どうして?」
俺がそれを聞くと、不自然なくらい目線が泳いだ。これは絶対に何かあるはずだ。
「…心理戦のつもりっすか?」
「いや?ただ気になっただけ。初対面なのに、名前を知られてるって不思議だなって」
「…まぁ、困ることじゃないっすから教えるっすけど、うちが守お兄さんのことを知ってるのはだいたい10年くらい前のあのことが原因っす。覚えてないっすか?」
…やっぱり、そのことか。でも、当事者ならともかく、そんな前のニュースを10歳くらいの子供が覚えてるものだろうか?
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