第64話

 「…えっと、別のこと、ですか?」

 「ああ、いや。僕もおじいちゃんって呼ばれるようになるんだろうかと」

 「へっ?」

 「お父さん!デリカシー無さすぎ!!まだ未経験だから!!」


 …って、そう言うことか!いやいや、流石にそんなわけはないでしょ!それに里恵、ムキになってカミングアウトしちゃってるよ!


 「えっ、ああ、いや。…その、なんだ。すまん」

 「もういい、お父さんがそんなこと言うなら、今日守君とヤる!」

 「あらあら〜。なら、私たちも久しぶりに一緒に寝ましょうか〜?」


 …いや、何言ってるの、ナニするつもりなの!?お父さん、助けて!…と思いお父さんの方を見ると、顔を赤くして俯いていた。


 「里恵、一旦落ち着いて。気持ちは嬉しいけど、準備ができてないから今日はごめんね。それに、呼び出しも受けてるからそれにも行かないとだから」

 「あっ、そうだった。…ちゃんと断ってくれるんだよね?」

 「もちろん。俺の彼女は里恵だからね」

 「…うん、信じてる」


 里恵はそう言ってくれた。瞳は不安で揺れているけど、それでも俺を信じるって。なら、その信頼に応えないわけにはいかないよな!…俺は絶対に里恵を悲しませない!


 「…じゃあ、全部終わったら連絡して。それまでにしてほしいことを考えておくから」

 「…うん、了解。どのくらいかかるか分からないけど、ちゃんと終わらせて里恵の元に戻ってくるよ」


 俺の居場所は里恵の隣なんだから。どんなことがあってもそれだけはこれから先、永遠とわに変わることはない。


 「あら〜、それなら直接来てくれないかしら〜?お泊まりしましょ〜?」

 「!…守君がいいなら」


 いい感じで送り出してくれそうな雰囲気だったのに、お母さんがそんなことを言ったせいで一気にピリついた。


 お泊まりって、それはつまり里恵と一緒の家で寝るってことで、お休みからおはようまでずっと側にいれるってこと!?眠くなるまでずっと話とかして、そろそろ眠いんだけど、我慢することで気がついたら寝落ちしてる、とか!?それとも、別々の寝室に別れたけど、やっぱり一緒がいいって枕だけ持って添い寝になるパターンなの!?…なんて、そんなわけないか。


 「守さんは里恵と同室でいいわよね〜?」

 「へっ!?いやいや、良くないですよ!!」


 そんなわけない、どころじゃなかった!まさか、一緒に寝ることを推奨してくるなんて…。それは緊張で寝れないだろうし、そもそも同衾どうきんなんてまだ早いよ!!


 「困ったわね〜。他に空いてる部屋はないのよ〜。ソファーとかで寝てもらうわけにはいかないから、最悪お父さんを追い出さないと〜」

 「ちょっ、怖いこと言わないでよ。里香が言うと冗談に聞こえないんだよ…」

 「あら〜、冗談なんかじゃないわよ〜」

 「…頼む、守君。里恵の部屋で寝てくれないか?」


 …お父さんも残念ながらお母さんサイドになってしまった。これで2対2か。よし、今日はお泊まりを諦めよう。


 「…私も、守君なら、いい、よ?」


 だけど里恵は消え入りそうな声でそう言った。…もう、俺は断れないな。里恵がイヤじゃないなら、俺だって緊張するだけで、イヤということはないから。

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