第62話
目の前に並ぶのは四つのハンバーグ。まずはオーソドックスなデミグラスソースがかかってるもの。他にもトマトソースがかかったものとクマさんの耳が付いてるもの。どれも美味しそうだけど、やっぱり俺は4つ目のハンバーグがいい。
綺麗な楕円ではなくてところどころお肉がはみ出たりしている。そしてぺったんこに潰れてしまって、表面には黒い部分が目立つ。
「…うん。俺はこれがいいです」
「えっ!?…無理、してない?それか、お母さんに何か言われたとか?」
「?いや、特にないけど…里恵はこれが良かった?」
俺が聞いても里恵はフルフルと首を振るだけだった。それでも、信じられないと言うように俺を見る。
「ねっ?お母さんが言った通りになったでしょ〜?」
「…うん」
?俺の行動が予想されてたってこと?自分で言うのもなんだけど、10中8、9別のを選ぶと思うんだけど…。
「だって、守さんへの愛がたっぷり入ってるものね〜」
「ちょっ!お母さん!!」
「あらあら〜。…それでも、嬉しいんでしょ〜?」
「うぅ。…そうだよ!守君が喜んでくれるかなって思って作ったの!!……うまくできなかったけど」
「…そっか。ちゃんと受け取れて嬉しいよ」
…だからエプロンしてたのかな?それにしても、なんか特別だという直感を信じて良かった。里恵が俺のためを思って作ってくれたんだよね?嬉しいな。
「…美味しくなかったら残していいからね?無理しちゃダメだよ」
「うん。里恵のためにも無理はしないよ」
…もう俺だけの命じゃないんだから、里恵のためにも頑張らなきゃ!なんて、気付けたのは郷田さんから指摘されたからなんだけどね。“2人で”幸せになるってそういうことだと思うし、俺が好きになった里恵は俺が傷ついたら一緒に悲しんでくれる、優しい人だと思うから。
「…うん。…じゃあ、私はこれにしよっかな?」
そうして里恵が手に取ったのはデミグラスソースのかかった普通のハンバーグ。…でも、クマさんの方にも物欲しげな視線を向けていたような?気のせい、なのかな?
「?こっちじゃなくていいのかしら〜?…珍しいこともあるものね〜」
「お母さん!勝手なこと言わないで!!そんな子供っぽいことしないんだからね!?」
「あらあら〜、そう言うことね〜」
…もしかして、俺がいるから我慢してるの?遠慮しないでって言ったのは里恵なのに?そもそも里恵のお祝いなんだから、主役がそんなのじゃダメでしょ?…とは、思うものの、どうすればいいのか分からない。隠そうとしてるのを無理矢理、は違うだろうし…。
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