第61話
そうして俺はバイトを終え、里恵の家に向かった。…最近は自分の家よりも先に自然と里恵の家に向かってるような気がするけど…。
そうして到着した里恵の家。お邪魔します、と言いそうになってお母さんに言われたことを思い出した。
「…ただいま、里恵」
「お、お帰りなさい、守君。…お、お風呂にする?ご飯にする?それとも、わ、私?」
ドアを開けて真っ先に飛び込んできたのは、エプロンを付けておたまを持った里恵だった。セリフはあれだけど、ちゃんと服も着てる…って当たり前のことなんだけど、なぜか安心する。…そっちがその気なら、俺だって!
「…そうだな。それじゃあ、里恵にするかな?」
「ふぇ!そ、それって!?」
「ん?分かんない?」
「えと、その!?……や、優しく、してね?」
「…えっと、言ってあったお祝い、何がいいかなってことなんだけど、ナニと勘違いしてたのかな?」
俺はにやりと笑ってそう指摘した。里恵はポカンという顔をして、すぐに真っ赤になった。そしてしゃがみ込んでしまった。
「あうぅ。恥ずかしいよぉ」
「ははっ、まぁ、わざとなんだけどね?」
「むぅ。…守君に揶揄われるの、なんかいいな」
だけど、すぐに復活した里恵はそう言って微笑んだ。それから
…里恵の揶揄いは心臓に悪いよ。大好きな彼女からそんなこと言われたら、選ぶのは一つでしょ?もし2人きりだったら、絶対に食べてたよ。…俺の理性、いつまで持つかな?少なくとも、その間は里恵の理想の彼氏にならなきゃ!
そして心を落ち着けた俺は里恵から少し遅れてリビングに立ち入った。リビングのテーブルに並べられていた料理はハンバーグだった。てっきり里恵の好物のお寿司になるのかと思っていたから多少意外だったけど、流石に連日だと飽きちゃうか。
それに、四つ並んでいる内の一つだけ形が少し不恰好、なんだけど、なぜかそれから目が離せない。料理に大切な見た目はいいとは言えないけど、それを補って余りある何かがある気がする。…上手く言葉で表せないんだけどね。
「あら〜、おかえりなさい、守さん」
「ただいま、お母さん」
「うんうん、いい感じじね〜。さっ、好きなハンバーグ選んでちょうだい。ご飯にしちゃいましょ〜!」
「あっ、す、すみません。もしかして、お待たせしてましたか?」
「はは、それこそ気にしなくていいよ」
そう朗らかな声が背後から聞こえてきた。振り返るとそこにはお父さんがいた。
「えっと、それなら気にしないことにします。…けど、まず選ぶのは里恵なんじゃ?俺が最初でいいんですか?」
「うん。私もそれでいいよ。…遠慮しないで、食べたいものを選んで?」
「…里恵がそう言うなら、分かった」
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