第58話

 「…あなたが好きです。この世界の誰よりも」


 里恵ははっきりとそう言った。聞き間違えたり、誤解したりする余地のないほど完璧な告白。


 「…そっか。そう言ってもらえて嬉しいよ。けど、あ〜〜!くそっ!」


 俺が先に言いたかったのに!!


 しかし、それで断られると勘違いしたのか里恵は瞳を潤ませて、それでも目を決して逸らさずに待っていた。


 「っと、ごめん。俺の方から言いたかったな、って。…俺も里恵のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」

 「えっ?今、好きだって。勘違いじゃ、ないの?」

 「勘違いでも聞き間違いでもないよ。里恵が好きだ。…まだ、信じられない?」


 俺がそう聞くと里恵はぶんぶんと首を振る。でも、信じられないというような表情をしている。俺も行動で里恵が好きだと伝えてきたつもりだけど、まだまだ伝わってなかったのかな?


 「きゃー!!聞いた聞いた?良かったね、りーちゃん、まー君も!」

 「…っていうか、あんたらまだ付き合ってなかったの?もう甘酸っぱい雰囲気垂れ流しだったじゃん」

 「…りーちゃんを泣かせたらウチらが許さないからな」

 「ん。…お幸せに」

 「あ、あの、その。…よかったね、りーちゃん」

 「…ふぇ!?」


 そんなとき、里恵の部活仲間のみんなが口々に俺たちを祝福してくれた。…やっぱり、志多さんも含めて里恵の周りには優しい子ばかりが集まってるな。これが類は友を呼ぶってことなのかな?…そして里恵は固まっている。


 「…もちろん。絶対に里恵を幸せにしてみせるよ。俺の全てを賭けて」

 「…今はあんたを信じるわ。でも、里恵と“2人で”幸せになるのよ?それ以外は認めないんだからね!」

 「俺は里恵が隣にいてくれればそれで幸せなんだ」

 「…それもそうね。付き合う前からあんなにイチャイチャしてたら、これからは一体どうなっちゃうのかしら?」


 そう話す郷田さんの表情は、どこか釈然としないようなものだった。里恵が離れていっちゃうとか思ってるのかな?自分の練習試合よりも俺の予定を優先させるように言ってた里恵が、友達をないがしろにする?あり得ないでしょ?


 だから俺は…


 「あっ、ごめんね。俺が君の友達の里恵を横取りしちゃって〜」


 挑発する。郷田さんならきっとこれに乗ってきてくれるはずだ。彼女にはこうする方がいいと思う。


 「なっ!?そ、そんなんじゃないし!…それに里恵なら私とも仲良くしてくれるはずだし…」

 「うん。分かってるならいいや」

 「〜ッ!!…もう!私が里恵をから奪っちゃうんだからね!……それと、ありがと」

 「どういたしまして」

 「な、何で聞こえてるのよ!ばかばか!!」


 小声ではあったけどちゃんと聞こえてたから返事したのにあんまりだよね!…なんて、半ば意図して言ったんだけどね?だって、郷田さんと少し仲良くなれた気がしたから。…名前も呼んでくれたし、多少は俺を里恵の彼氏と認めてくれたのかな?

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