第54話 ★

〜華菜(部長)視点・回想〜


 それは私の憧れだった。一目で虜になった。先輩になるんであろう人の綺麗なシュートフォーム。中学二年生だった私は、こうしてはっきりと目標を定めた。


 私はずっとバスケに青春を捧げていた。その人を見かけたのも地元で練習をするからと見学に来ていたからだ。そこまで人と違うオーラがあるわけでは無かった。こんな人よりも自分の方が強い。そんなことを思っていた。


 だけどその人は全力で、ボールを持つと誰よりも強かった。積み重ねてきた時間が、想いが違うんだとその人はプレーで示していた。きっと私はおごっていたんだろう。次期部長と持てはやされてそれに気を良くして。


 それに気づいた私は中学の部活を退部した。あの人と同じ高校に行くためには、今のままの学力じゃダメです。一時的にバスケを辞めてでも、あの人と一緒のチームでプレイしたいんです!


 そして一年ちょっとの勉強の末、私は念願の高校に合格しました!…だけど、あの人はまだいるのかな?もし私が見かけたときに1年だったら最後にちょっとだけ一緒にプレーできるかな?それとも、あの人と同じような人がいっぱいいるのかな?


 …だけど、私の理想はすぐに崩れ落ちることになった。バスケ部の活動停止。去年、バスケ部だった先輩達が何か不祥事を起こしたみたいで、バスケ部は1年間の活動停止処分中だった。


 …どうしてこうなったの?私はバスケが全てだったのに。それだけを思って勉強も頑張ってたのに…。全部、無駄なの?…そんなことは認めない!


 私はすぐに直談判に行きました。バスケを諦めるなんて私にはできません!ですが、ほとんどの先生は真面目に考えてくれません。決まりは決まり、活動停止明けならいいけど、それまではダメだ、と。きっと、それが一つのなんでしょう。でも、できるかは別問題。大好きなバスケを我慢して勉強に励んだ結果がこれじゃ到底納得なんてできない!


 …でも、私じゃ何もできない。そんなとき、私の心のモヤモヤを聞いてくれた先生がいた。私と同じ年に入ってきた新任の先生で、私よりも少しだけお姉さん。担当教科は倫理・道徳っていうもので、正解のない問題を考えたりする。一年からの必修科目になっているこの高校は珍しいのかな?


 彼女は私の愚痴をしっかりと聞いて、ちゃんとアドバイスしてくれる。私が本当にしたいことは何なのか、反対する意見があるのはどうしてか、どうして私がそれをしたいのか…。


 …私は無意識に選択肢を狭めていたみたい。私が本当にしたいのはバスケで、バスケ部に入りたいわけじゃなかった。バスケ部に拘る理由はあの人が、名前も分からない彼女がいるかもしれないからだ。…もし私がバスケ部を復活させたとして、そして、もしあの人がまだ在校していたとして、果たしてまたバスケ部に入ってくれるのだろうか?その可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。

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