第53話
残り1分
逆転なんてさせまいと相手チームが果敢に攻めてくる。里恵は抜かれ、ディフェンスしてた霧島さんも遅れてしまった。
残り50秒
ついにシュートを放たれた。山なりで綺麗にゴールまで向かっていったボールは、何の抵抗もなくネットを揺らした。これで4点差。でも、里恵たちはまだ諦めてない。
残り40秒
ゴール下から運ばれたボールはすぐに里恵の手に渡った。そのままジャンプ…
「させない!」
すると思わせてから冷静にドリブルで一番近くの相手を躱してシュート。これも見事に入った。これで1点差。まだ、最後までどうなるか分からない!
「…今日だけは、絶対に負けたくないの」
静かに里恵がそう言ったような気がした。ううん、確かに聞こえた。…やっぱり、この試合は里恵にとって特別だったんだな。見に来れて、良かった。
残り30秒
ギリギリだ!24秒ボールを回されてもどうにか里恵がゴールできるかもしれない。そうならないために、どうにかもう一本入れようとして来るはずだ。
その読み通り、相手はゴールを狙ってきた。…だけど、動きが少し遅い。
残り15秒
ようやくゴール付近に来た相手がシュートを放った。これまで通りに決まっちゃうのか、と思ったそのとき!後ろから迫った時雨さんがボールをカットした。
「…後輩だけに、いいカッコさせない!」
そして弾かれたボールは郷田さんの元へ。すると相手チームはすぐに里恵のマークに入った。…3人も。だから攻めるスピードが遅かったんだ!いつでも後ろに戻れるようにしてたから…。
残り5秒
「…絶対に繋ぐ!みんなの想いを!」
そうして放たれたシュート。当然ながら入るはずがない。里恵が特別なんだ。
残り3秒
みんなが動きを止めた。この先の結果なんて分かってるはずなのに、そのボールを目で追ってしまう。
残り2秒
ボールはもうゴールまで半分くらいの高さしかない。このままコート外に出て試合終了。誰もがそう予想した。
残り1秒
「頑張れ!!!」
ベンチの五月雨さんが声を張り上げる。だけど、奇跡なんて起こり得ない。
「任せて!」
…はずだった。最初からゴール下にいたもう1人の人物。かなかなさん。彼女が少しだけボールを上に上げた!
残り0秒
ビーーー!!
試合の終了を告げる鐘が大きく響いた。しかし、その場の誰もが聞き逃さなかっただろう。小さく、けれど確かにパサッとネットを揺らす音がしたのを。
…一体、どれだけの時間余韻に浸っていたのだろうか?選手も、観客も、審判ですらも立ち尽くしていた。
「…勝っ、た?…勝ったよね!?勝てたんだよ!!みんな、ありがどう〜〜〜!!!」
「わっ、ぶ、部長。…良かったですね」
その静寂を破ったのはかなかなさんだった。感極まったのか、一番近くにいた里恵に抱きついた。そんなかなかなさんに里恵は一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに優しく抱きしめるようにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます