第52話

 そうして試合は進み、第一クォーター終了時点で15点ほどこっちが勝っている。だけど、かなかなさんは少し焦っているみたいだった。このままいけば勝てる、なんて試合じゃないのかな?


 その予想通り、第二クォーターでは徐々にペースが乱れて、ミスが多くなっていた。…そうか!こっちはほとんどみんな10分間走り続けた後にまた同じ人が出てるんだ。それなら疲れて当然だよな。相手もそれを分かっているのか、里恵との交代で出た郷田さんに重点的に守りに入り、なかなか点を取れなくなっていた。


 そして第二クォーターが終わった。点差はこっちの3点負け。そして15分のインターバル。気づけば俺は駆け出していた。どうしてか、なんて理由はいらない。辛そうにベンチで必死に祈ってた里恵を見て動かないなんて俺にはできなかった。


 「…里恵!」

 「ッ!?…ま、守、君?どうして」

 「どうして、か。…里恵が辛そうにしてたから?なんて」

 「…もぅ。…ばか」


 里恵は頬を染めてそう言った。だけど、すぐに表情を引き締めてチームメイトの顔を見渡した。そして一言だけで士気を高めた。


 「みんな、勝とう!」

 「もち!それなら…」

 「…うん。それで行こう」


 もう負けるんじゃないかという悲壮感はなかった。諦めなければチャンスはあると、そのチャンスを掴むための作戦も決まった。


 そうして気合いを新たに迎えた第三クォーター。引き続き里恵がベンチでパス回し中心のプレー。そしてなるべく点差を離されないようにしたおかげか、点差は10点で終了。そして最後の第四クォーター。切り札として残っていた里恵の出番が来た!


 「決めちゃえ、リエ!」


 すぐに里恵まで回ってきたボール。中央よりも少し相手側からそのパスを受け取った里恵はなんとそこからシュート。パサッとゴールネットを静かに揺らしたそれに、会場中が静まり返った。一瞬の静寂の後、堰を切ったように拍手の雨が降り注いだ。


 気づけば俺は立ち上がっていた。それでも俺が目立たなかったのは、全員が同じように立ち上がっていたからだろうか?それとも、他人に注目することができないほど感動していたからだろうか?


 そこからの試合は白熱した。里恵のシュートを恐れて近くでディフェンスしているとドリブルで抜かれ、あの超超ロングシュートはまぐれだと距離を取れば構わずシュートが放たれる。


 他の人も体力が限界で、相手からのスリーポイントシュートを防ぐので精一杯。だから、こっちが3点取ると相手に2点取られる。残りはあと1分で2点負けの相手ボール。これを取られると一気に辛くなるが、ここでボールを奪えたら逆転が見えてくる。…頑張れ、里恵!!

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