第41話

 「やぁ、里恵も今帰り?それと隣にいるのはもしかして…」

 「…うん」

 「やっぱりね!僕は里恵の父の新妻 まこと。君のことは娘から色々聞いてるよ。ちょっと直情的なところがあるけど根は優しい子だからこれからもよろしく頼むよ」

 「は、はい!お…私は杉田 守と言います。こちらこそ、里恵さんにはよくしてもらっています!」


 誠さんの第一印象は優しそうな人だった。それに里恵を、家族を大切にしているのは言葉の節々から感じられた。


 「…うん。聞いてた通りに真面目そうな人じゃないか。これなら安心…だけど、少し残念だな」

 「…残念、ですか?」


 …もしかして、知らない間に何か誠さんを不快にさせることをしてしまったのかな?それならちゃんと謝らなきゃ!せっかくなら里恵の両親にも俺たちを祝福してほしいし…。


 「ああ。やっぱり父親としては一度でいいから『娘はやらん!』って言ってみたかったんだよね。でも守君には、娘の命の恩人には、そんなこと言えないよ」

 「もう!お父さん!!変なこと言わないでよ!!」

 「あはは!悪い悪い。…っと、あんまり遅くならないうちに帰ってこいよ〜」

 「…えっと、良ければご一緒しませんか?里恵もそれでいいよね?」

 「…守君がそう言うなら」

 「おや?これからデートなんじゃないのかい?」

 「…お父さん?怒るよ?」


 …怒るよって言ってる人って、もう8割は怒ってるよね?思わず里恵の雰囲気に呑まれて現実逃避していると、


 「…わ、悪かった。でも、明日は試合があるんだろ?せっかくだし2人で夕飯でも食べてきたら?…あっ、お金?とりあえず一万円でいい?」

 「…?…なるほど。どこでやるのかだけ教えてもらえますか?」

 「…ほんとお父さんは無駄なことしかしないね。…歩きながら話すよ」

 「…あれ?余計なこと言った?」

 「守君、行こっ?…お父さん?早くしないと置いてくよ」


 俺は里恵に引きずられるようにして後を付いていった。それに慌てて誠さんも同行して3人で里恵の家に向かった。


 「…明日、部活の練習試合があるの。場所は市民体育館」

 「…そっか。大事な試合なんだ」

 「…うん。負けたくない」

 「…分かった。なら応援に行かないとね」


 里恵が本気なのが伝わってくる。バイト先には急なことで迷惑をかけちゃうかもだけど、今は里恵を最優先にしたい。


 「…ダメ、だよ。明日は元の予定があるんでしょ?なら、そっちを優先して」

 「…えっ?でも…」

 「また次、見に来てくれればいいから。ね?」

 「…分かった」


 モヤモヤした気持ちを抱えながらも俺は頷くしかなかった。頭では里恵の言葉が正しいと理解してるのに、何故か納得できなかった。…まるで、って漠然と伝わってくる気がする。だけど、問いただすこともできない。

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