第40話
「…全く、空気が甘すぎよ!私はもう限界!先に帰らせてもらうわ!」
そうして一足先に歩いて行ったのは郷田さん。それに続くように他の人たちも郷田さんを追いかけて、残ったのは俺と里恵、そしてかなかなさんだけだった。
「も〜、せっかくりーちゃんって教えてあげたのに、やっぱり私じゃ伝わらなかったか〜」
「…あ!あの『いいやん』ってそういう意味だったんですか!?」
「…ぷっ、いいやんって。…まー君には私の言葉を無視した罰を与えます!」
えっ!?流石に理不尽過ぎない?俺のせいなの!?
「りーちゃんを家まで無事に送り届けること!」
「…はい、必ず」
「よろしい!じゃあ私が一緒だとまー君の罰にならないから帰るね。また来週!」
かなかなさんもそれだけ言うと足早に他の人たちを追いかけ始めた。…これで俺と里恵の2人きり。
「…じゃあ、俺たちも帰ろうか」
「…うん。今日も家に寄ってくれる?」
「う〜ん?考え中」
…多分、きっと、おそらく成功するとは思うけど万が一告白が失敗したら気まずいしな。成功したらしたでお母さんやまだ会ってない里恵のお父さんにも挨拶しないと。
「そっか。その、あ、明日なんだけど。…守君と一緒に居たいなって、その。も、もちろん!迷惑じゃなきゃ、なんだけど…。どう、かな?」
「…その、ごめん。5時くらいからならお邪魔できるけど、それより前は用事があって…」
「…そ、そうなんだ。それなら仕方ないね、うん。仕方、ないんだもん」
里恵は目に見えて落ち込んでしまった。本当なら頷いてあげたい、一緒に休日を過ごしたい。…でも、俺にはバイトもある。土日のどちらか片方に9時から16時まででお昼休憩1時間あり。最初は時間つぶしでかなり長い時間バイトすることに驚かれたけど、今ではやりがいも感じている。一緒に働く仲間もいい人ばかりだし、俺のわがままで迷惑をかけるわけにはいかない。
「…もしかして、明日何かあるの?」
「う、ううん。何でもないの。守君と仲良くなって初めてのお休みだったからつい。…それだけ、だから!」
「…なら、明後日でもいい?もちろん、明日も夕方からで良ければお邪魔させてもらうけど…」
「…うん、待ってる。夕方からでも会いたいな」
「了解。なら明日も里恵に会いにくるよ」
「うん!」
そうして里恵は普段通りの…ふりをした。だけど明らかに元気がなくて、やっぱり明日は何かがあるんだよな?…俺も知らない里恵の何かが。
里恵について知ってることよりも知らないことの方が多いのは分かってる。でも、そういうのをもっと知りたい。里恵にとっての特別な存在に、なりたい。
「…里恵」
「?守君、どうしたの?」
「そこにいるのは里恵?」
好きだ!そう、言おうと息を吸い込んだ瞬間、俺でも里恵でもない声が聞こえてきた。慌ててその声の方を見ると、40代くらいのスーツ姿の男性がいた。
「お、お父さん!?」
里恵がそう叫んだ。…って、里恵のお父さんなの!?
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