第39話
「そうだな〜。…じゃあ、りーちゃん、とか?」
「…りー、ちゃん。守君が考えてくれた名前。…うん!りーちゃんがいい!」
俺がそう言うと里恵さんは噛み締めるように呟いて、それから嬉しそうに笑ってくれた。安直なことは分かってるけど、気に入ってもらえたみたいで良かった。
「…ねぇ守君。私も、その、まー君って呼んでも、いい?」
「?もちろんいいよ」
「まー君!」
「どうしたの?」
「ん〜、呼んだだけ〜」
里恵さんは楽しそうに俺を呼ぶ。その度に優しい微笑みを浮かべる里恵さんとその背後で優しい眼差しを向けるかなかなさんたち。
「まーっ、君!」
「…どうしたの?」
「わくわく。…まー君?」
「?な、何、里恵さん?」
「…ぶぅ!まー君!!」
「…えっと」
…里恵さんが俺に何かをしてほしいのは分かってる。だけどそれが何か分からない。俺が戸惑っているとかなかなさんと目が合った。そしてはっきりと口を動かした。
『“い” “い” “や” “ん”』
…いいやん?何が!?どういう意味なの!?全く分からない…。
「…ごめん里恵さん。何かしてほしいんだろうなってことは分かるんだけど、何を望んでるのか分からないんだ。良ければ教えてほしいんだけど…」
「あっ、ごめんね。そんな大したことじゃないんだけど、またりーちゃんって呼んでほしいな、なんて」
「なるほど。…りーちゃん」
…って、改めて呼ぶのは緊張するよ!期待されてるのがひしひしと伝わってくるし…。呼び方一つでそんなに期待しないで!
「うん!ありがとう、まー君!」
「ふふっ、どういたしまして。でも、こんなのでいいなら遠慮しないでいくらでも言ってくれていいよ」
…だけど、里恵さんの笑顔を見られたなら、恥ずかしがらずに伝えられて良かったな。他のどんな人のどんな言葉よりも
「…じゃあ、もう一つ、いい?」
「ん?何?」
「その…里恵って、呼び捨てで呼んでほしい」
「…里恵?」
「〜〜〜ッ!!!」
それだけで顔を真っ赤にした里恵さんが慌てて下を向いた。でも、耳まで真っ赤で隠しきれてない。
「…どうしたの、里恵?」
…どうしてかもっと里恵さんを揶揄いたい気持ちが湧き上がった俺はわざと里恵さんの耳元で囁くようにそう言った。もちろん、名前の部分だけほんの少し強めに。
「…守君のいじわる。もう、もう!もう!!…大好き」
「俺も好きだよ」
「…えっ?……えっ?えっ!?………え〜〜〜〜!!?い、今!…今何て言ったの?」
「ん〜?もうそろそろ帰ろうって」
「…あれ?聞き間違い、かな?幻聴?」
里恵が目に見えて落ち込んじゃったけど、2人きりのときに改めて伝えたい。…本当はこんなことまだ言うつもりじゃなかったけど、里恵から大好きなんて言われて抑えられなかった。その直前に囁いてなかったら大声で叫んでたかも…。そうなれば誤魔化すどころじゃないだろうし、不幸中の幸いだったな。
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