第35話
俺は周りの女子に噂を聞いた。…そう、俺も里恵さんと一緒に囲まれている。おかげで男子からの嫉妬は感じない、が女子からの好奇の視線に晒されている。
「噂っていっても、新妻さんがその、あまり良くない彼氏と別れて明るくなった、とか?」
「私が聞いたのは浮気されてた里恵ちゃんが優しくしてくれる運命の相手に救われた、って聞いたよ!」
…俺が運命の相手かどうかは置いておいて、ほとんど事実だ。
「…うん、本当だよ。私、守君のおかげで今が幸せなんだ」
「…そっか。俺も里恵さんと一緒に居られると楽しいんだ」
「〜っ!うん!ありがとう守君!!」
里恵さんが感極まったように立ち上がったときだった。そのタイミングで時間切れになってしまった。
「席に着け〜、授業始まるぞ〜」
「…は〜い」
里恵さんは少し広げた腕を力なくだらんと垂らした。そして大人しく席に座り直した。
「じゃあ、また授業終わってからね」
「…うん」
そして俺も自分の席に戻った。明らかにしょんぼりしてた里恵さんを元気付けたかったけど、授業はちゃんと受けないとだしね。
それからは休み時間の度に里恵さんと過ごした。…というか、女子たちに連行された。俺自身もイヤじゃないからいいんだけどね。お陰で男子から絡まれたりしないし。
そして迎えた昼休み。また声を掛けてくれた女子には悪いけど、用事があると断った。花の水やりもしないとだしな。
「守君、待って!」
「えっ?里恵さん?」
「うん!その…、私も一緒でいい?」
「構わない、けど、時間かかるよ?」
「大丈夫!」
「…そっか。じゃあお願いしようかな?」
「
俺の後を里恵さんがジョーロを持って付いてきた。俺が何をやってるのか知ってくれてるみたいで嬉しかった。
「…守君はお花にも優しいんだね」
「そんなことないけど…」
「そんなことあるよ。今日だって、昨日だって、気づかなかったけどその前からずっとやってたんでしょ?すごいことだよ!」
里恵さんはそう言って俺を褒めてくれた。だけど、そんなことは全くない。だって結局は自分のためなんだから。
「…俺は全然凄くなんてないよ。水をあげるのだって当然のことだよ。俺も、里恵さんもそうだけど、ずっと何も食べないなんて辛いでしょ?花にもそんな辛さを味わってほしくないじゃん」
「えっと?」
「この花たちだって、元々生息していた環境があって、でも俺たちが綺麗だから、可愛らしいからって勝手な理由でそこから移したんだよ?」
「…それは」
「うん。俺たちには関係ないよね?でも恩を一番受けてるのは俺たちで、それならせめていい暮らしができるようにしたい、って思うんだ」
「…うん、そうだね。私もそう思うよ!」
里恵さんは鼻歌を歌い出しそうなほどるんるんと水やりをやってくれた。…今日の水やりはいつもよりも楽しかったな。
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