第34話

 足早に駆けてきた俺たちが到着したのは8時25分ちょい前。かなりギリギリになっちゃったけどなんとか遅刻は免れた。…でも、こんな遅い時間に男女2人で教室に駆け込んだからか、少し目立っちゃったな。


 そしてすぐに始まった朝のホームルームが終わった後、里恵さんの周りにはクラスの女子が集まっていた。


 「ねえねえ、里恵ちゃんと杉田君って仲良かったの!?」

 「もしかしてもう付き合ってたりして!?」

 「そういえば、ここ最近楽しそうだったもんね」

 「あ〜、やっぱりあの噂、本当だったんだ〜」

 「噂って?」


 それまで中心で微笑んでいた里恵さんがそう聞いていた。確かに、それは俺も知らないな。里恵さんにとってマイナスじゃなきゃいいけど…。


 「…あ〜、え〜っと、それは〜」


 だけど言いにくそうに口籠った。他の人も目を逸らすってことは伝えられないもの?


 「…なら、一つだけ聞かせて?里恵さんにとってマイナスな噂?」

 「え〜っと、多分プラスだとは、思います」

 「そっか。なら噂についてはもう聞かないよ。里恵さんもそれでいい?」

 「まだ足りないよ!…守君にとっては?」

 「それはプラスになる、はずだよ」

 「…うん、信じる。もう聞かないよ」


 …やっぱり里恵さんは優しいな。わざわざ俺のことについても確認してくれるなんて。元々の流れ的にも里恵さんが中心の噂なのは間違いないのに。でも、最初からそこまで心配はしてなかったんだけどね。みんな里恵さんを気遣ってくれてるし。


 「…それにしても、真っ先に里恵の心配をするなんて。杉田君ってもしかして…」


 だけど、俺の方に興味が移ってしまった。俺の好意にも勘づかれた、かな?俺も隠し通せるなんて思ってないし、仕方ないことなんだけど。


 「お人好しなの?」


 …気づかれてなかった!これは、どう答えるのが正解なんだ?肯定できるようなお人好しではないし、かといって否定すると里恵さんが特別だって反応な気がするし…。俺にとっては普通のことなんだよな。


 「あはは〜、杉田君が困ってるでしょ〜」


 そう助け舟を出してくれたのは志多さんだった。続けて志多さんはとんでもない爆弾発言をした。


 「それに〜、噂が気になるなら教えてあげるよ〜。…というか、私が流したんだし〜!」

 「なっ!?」

 「…ふぇ?」


 驚いて志多さんの方を見ても全く顔色が変わってない。…いや、それどころかむしろ褒めてほしいと言うかのようにドヤ顔を浮かべていた。相手が里恵さんの一番の親友の志多さんなら、安心、なのか?


 噂を流したという張本人が現れるなんて今まで生きてきた中でも初めてのことに、俺はどう反応すればいいのか分からなかった。

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