第33話

 「…里恵、か?おい!」


 普段と登校の時間がズレたからか、今一番会いたくない人物と遭遇してしまった。…それは葛原 和哉。里恵さんの、


 「早く行かないと!守君、急ごっ?」

 「待てよ!」

 「…何?私たち、急いでるんだけど?」


 そんな因縁のある相手のはずなのに、里恵さんは気にすることなく俺の手を引いた。だけど葛原も何故か俺たちの前に立ち塞がった。仕方なく里恵さんも話を聞くことにしたみたいだけど…もう関わらないでほしい。


 「…お前、別の男がいたのか?俺と付き合ってながら?」

 「…もう、恋人でもなんでもないでしょ?私が誰と仲良くしてもあなたには関係ない」


 …葛原がそれを言うのか?浮気して開き直って暴言を吐いたお前が?ふざけるなよ?


 俺は葛原に詰め寄りそうになるのを必死に堪えた。だって俺はほぼ部外者だから。俺が出しゃばったところでややこしくなるだけだ。…だから、冷静になれ、杉田守。


 「…へぇ〜。なぁ、あんた。俺はほんの少し前までそいつと付き合ってたんだけど、きっと他にも男がいると思うから切り捨てる方がいいぞ」


 その瞬間、俺の中の何かがブツリと音を立てて引きちぎれた気がした。俺は拳を強く握った。今にも殴りかかりそうになった俺の前に、不意にさっきも見た2人が現れた。


 …そう。天使の姿をした里恵さんと、悪魔の姿をした里香さん。さっきは対立していたはずの2人が手を組んで俺を引き止める。


 『『待って!』』


 それはきっと幻覚だ。ほんの少し残った俺の理性が作り出した幻。…でも、俺自身のことを一番分かってる俺が止めようとしたんだ。俺は止まるしかない。いくら幻でも2人の言葉を蔑ろにするようなクズに、俺はなりたくない。


 「…ふぅ。…確かに、浮気をするような奴は全員クズだよな」

 「そうそう!さっさと別れちまえ」

 「…まぁ、俺が里恵さんと話すようになったのは3日前の放課後からだから関係ないけどな、クズ」

 「なっ!?て、テメェ」

 「さっ、行こっ、里恵さん!」

 「う、うん!」

 「待てよ!」


 俺は里恵さんの手を引いて駆け出した。里恵さんもすぐに俺に合わせてくれて、2人で通学路を駆けていく。最初からこうすれば良かったな。止まる必要なんてなかったんだから。


 それでも、里恵さんが本当にクズのことを気にしてないのが分かったのは嬉しかったな。ちゃんと前を向けてるんだ。俺もその助けに少しでもなれてたら、いいな。

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