第31話

 「す〜、す〜。…守君、大好き、だよ」

 「〜〜〜〜ッ!」


 里恵さんが俺の耳元でそう囁く。もう!どうしてそんなこと言うの!!…嬉しくなっちゃうじゃん。ようやく硬直から立ち直ってきたのに!


 「起きて?」

 「やぁ!」


 俺がなんとか里恵さんを引き離そうとしてもより一層強く抱きついてくる。それに合わせて柔らかい感触が強くなる。花柄のピンクのパジャマの中をどうしても感じちゃう。


 …もう、俺には無理だ。そう判断した俺は里恵さんを起こさないように持ち上げた。そして頼まれごとを果たせなかったことをお母さんに伝えに行く。


 「…すみません、お母さん。ミッション、失敗しました」

 「あらあら〜。それなら私に任せてくださいな〜」

 「お願いします」


 お母さんは俺に抱きついている里恵さんの写真を撮りまくった後、里恵さんの耳元に口を寄せて…。


 「起きなさい!」

 「はい!」


 ただ一言。まさに鶴の一声。それだけで里恵さんは完全に起きていた。やっぱり流石だな。


 「…って、もう守君来てたの!?それに、何でリビングにいるの!?」

 「うふふ〜、なぜかしらね〜。そうそう、こんな写真があるのよ〜」

 「…むぎゅ〜」

 「ちょっ、里恵さん!?」


 里恵さんはそう言いながら倒れてしまった。俺が慌てて駆け寄ると目を回していた。


 「あらあら〜。しばらくしたら起きると思うわよ〜」

 「…そういう問題ですか?」

 「そういう問題よ〜。焦ったってしょうがないでしょ〜?」

 「…確かにそうですね」


 …お母さんが何かスマホの画面を見せたからこうなったんだよね?きっとさっきの写真かな?それであんなに恥ずかしがってくれるなら…嬉しいな。


 俺の中にむくむくとある思いが強くなっていくのを感じる。それはもっと可愛い反応を見たい!というもの。それと耳元で大好きなんて囁かれた俺のささやかな復讐。…「囁かれた」と「ささやかな」は別にダジャレじゃないよ?


 「…まったく、仕方ないな〜」


 俺は言い訳をするかのようにそう言って里恵さんの近くに腰を下ろした。そして正座した膝の上に里恵さんの頭を乗せた。これで俗に言う膝枕の完成!


 「…ふふっ、可愛い」


 俺は無意識のうちに里恵さんのサラサラした髪の毛をそっと撫でていた。引っかかりのない髪の毛はところどころ飛び出ていて、そんな無防備な姿を見せてくれることが嬉しかった。


 俺がそっと里恵さんの寝癖を整えていると、カシャッという今さっきも聞いたような音が響いた。…見るとお母さんがスマホを構えていた。少しいたずら心が芽生えた俺はスマホに向かってピースした。当然ながらそれも写真に収められた。

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