第30話

 …俺の中の天使と悪魔が現れた。まずは里恵さんの顔の天使が言う。


 『乙女の部屋に本人に無断で入るなんて絶対にダメだよ!嫌われちゃう!!』


 確かにその通りだな。いくらお母さんがいいって言っても本人が言ってないのにダメだよね。…なのに里香さんの顔をした悪魔が俺に囁きかける。


 『何言ってるの〜?起こさないといけないのよ〜?…それに、見たいでしょ?無防備な姿』


 …悪魔里香さんは俺をそそのかす。俺は、無力だ!!ごめん、里恵さん…。


 「分かりました。俺が里恵さんを起こしてきます」

 「あら〜、嬉しいわ〜。2階の左側にあの子の部屋があるからお願いね〜。プレートも飾ってるからすぐ分かると思うわよ〜」

 「はい、では」


 …俺は悪魔の提案に乗ってしまった。だって里恵さんの寝顔だよ!絶対に可愛いに決まってるじゃん!!…いやまぁ、どんな里恵さんも可愛くて魅力的なんだけどね?


 そして里恵さんの部屋の前までやってきた。そこには言っていた通り木でできたプレートに丸みを帯びた可愛らしい文字で『りえのへや』と書かれていた。っと、いつまでも見てるわけにはいかないよな?一応頼まれて来たんだし。


 「…里恵さん?起きてる?」


 ノックしてそう声をかけても返事は返ってこない。やっぱりまだ寝てるのかな?


 「入るよ?」


 もう一度ノックをした後にドアノブに手をかけた。もともと鍵はかかってなかったみたいであっさりと扉が開いた。


 部屋の中は白をベースにした綺麗な内装だった。そして甘い香りが漂っていた。俺は早くなる鼓動を抑えてベッドに近づいた。部屋の中はクローゼットと本棚、勉強机にベッドと家具が少ないこともあってすぐに見つけられた。


 「起きて、里恵さん」


 まずは声をかけるだけ。…効果はないようだ。次に軽く肩をポンポンと叩く。


 「もう朝だよ?」

 「…う、う〜ん。…す〜、す〜」


 …効果はいまひとつのようだ。次は肩をゆさゆさと揺らす。


 「里恵さん、起きて?」

 「うにゅ。…守、君?」

 「うん、そうだよ。おはよう」


 どうやら効果があったようで里恵さんは目を覚ました。…でもまだ寝ぼけてるのかポワポワしている。そして俺と目が合うと、にへらっと笑った。


 「えへへっ、守君だ〜。ぎゅ〜」

 「へっ?……〜〜〜〜ッ!!?」


 …えっ!?何で!?えっ!?えっ!?…え〜〜!?


 俺は里恵さんに、好きな人に抱きしめられた。柔らかい!あったかい!!いい匂い!!!もう、死んでもいい…。俺には効果が、ばつぐん、だ。

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