第29話
「…それはどういうことですか?」
まだ百歩譲って俺を信じてるから合鍵を渡す、なら分かる。でも、合鍵を渡したいとなる理由は全く分からない。
「私にとって何より大切なのは里恵なの。もし私か里恵のどっちかしか生きられないとなれば迷わず里恵を生かすくらいには。…それなのに、あの子が一番辛いときに側で守ってあげられなかった」
「…それは」
「もちろん、過ぎたことを後から言っても仕方ないのは分かってる。それに、この先も似たことがあるかもしれない。そのときもまた、私は何もできないのかもしれない。だから…」
「…だから俺にも里恵さんを守ってほしい、と?」
「…ええ。身勝手なのは分かっているわ。でも、お願い。私にできることなら何でもするから」
そう言って里香さんは深々と頭を下げた。でもそんなことは頼まれなくてもやるよ。だって里恵さんのことが好きだから。里恵さんを守るために全力を出すって決めたんだから。
「そういうことなら構いません。…ただし、里恵さんにも伝えて俺が合鍵を持っててもいいと言ってくれたら、ですが」
「…ありがとう。あの子のことを気にかけてくれて」
「俺も里恵さんと一緒にいるのが楽しいですから気にしないでください」
「…そう。守さんがそう言ってくれるならそうするわ〜」
それから里香さんは微笑んだ。少し申し訳ないと思ってる気持ちが残ってる微笑みが、すぐに何かを企むようなニヤニヤした微笑みに変わった。…嫌な予感がする。
「守さんにもう一つお願いがあるのだけど〜」
「…はい、何ですか?」
「里恵を起こしてきてくれないかしら〜?」
「…えっ?」
やっぱり!!それってつまり里恵さんの部屋に入るってことでしょ!?寝顔を見れるってことでしょ!?パジャマのままってことでしょ!?
「いやいや!!そんなのプライバシーの侵害とかになってしまいますよ!!」
「あら〜、あの子が起きないから悪いのよ〜。それに〜、遅刻とかの方があの子も困るんじゃないかしら〜。ねっ?あの子を助けると思って〜」
…そう言われればそうかもしれない。もう7時15分過ぎだし、そろそろ起きないと遅刻になってしまう可能性も大いにある。男の俺なら最悪15分くらいで家を出れるけど、女の子は準備に時間がかかるって言うし…。
「…お母さんが呼びに行く、とかは?」
「むぐっ!……確かにそれでもいいけど、いつまでも頼られても困るのよね〜。だから少し恥ずかしい思いをしてもらった方がいいと思うのよ〜」
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