第19話

 「守君はここ分かる?」

 「ああ、そこはほら。問題文にこう書いてあるから、この公式を使えるよ」

 「なるほど!こうやればいいの?」

 「うん、俺のと同じ答えだね」


 お寿司をご馳走になった俺は里恵さんの課題を手伝っていた。もちろん、俺が直接やったり答えだけ教えたりしたわけじゃなくて、ほとんど眺めてるだけだった。…まぁ、俺の分は終わってるしな。


 「うふふ、頑張ってるみたいね。これなら明日からもお願いしたいわ〜」


 そこに夕飯の洗い物を終えた里香さん…お母さん、が会話に参加した。俺も課題を里恵さんと一緒にやるのも楽しそうだと思う。…やっぱり里香さんをお母さんと呼ぶのは慣れないな。


 「もう、お母さん!私がいつもやってないみたいに言わないでよ!」

 「あらあら。…ところで守さん?取引なんだけど、里恵に勉強を教えてくれないかしら?その代わり、ってわけじゃないんだけど、ご飯をご馳走するわよ?」

 「…ちょっと!無視しないでよ!」

 「えっと、勉強を一緒にするのは構いませんよ。ただ、それは友達と一緒に勉強したいからで、取引とかは必要ありません」


 …だって、俺も楽しみだから。授業以外でも一緒に勉強できる人。そんなのは初めてで、すごく高校生っぽい!だから、その関係を純粋にしたい。一緒にいたいから一緒にいるんだって。…それも里恵さんに今日言われたことなんだけどね。


 「…ええ、分かったわ。そういうことなら、私は来てくれる娘の友達のためにご飯を用意しておくわね?それなら守さんもいいわよね?」

 「ねえってば!私、ちゃんとやってるわよ!」

 「…そう言われては断れませんね。ぜひご馳走になります」

 「うふふ、楽しみだわ〜。守さんは好きな食べ物は何かしら?」


 …本当にいいのかな?すでに連日お邪魔してるし、かなり迷惑かけてると思うのに。でも、もしまた里恵さんたちと一緒にご飯食べられたらいいな。


 俺は半ば無意識に里恵さんの方を見た。すごく美味しそうに、幸せそうにお寿司を食べてた里恵さん。ほんの少し幼く見えた里恵さんはまた違った魅力があるような気がした。


 「…お寿司、ですかね」

 「まぁ!そうなのね。里恵と同じだなんて!羨ましいわ〜」

 「羨ましい、ですか?」

 「ええ。同じものを同じように感じること。それって、とっても素敵なことなのよ?」

 「…確かに、その通りですね」


 …俺がお寿司を好きと選んだ理由はとても単純だ。それを食べた里恵さんの笑顔が頭から離れないから。一番新しくて、一番素敵な笑顔だったから、かな?

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