　「…なん、で？どうして、そんなこと、言う、の？」

　俺は新妻さんのためだと思って距離を置こうとしたのに、その新妻さんは全く嬉しそうじゃなかった。…それどころか、無くなったと思ったはずの危うさが出てる気がした。

　「何でって、新妻さんも昨日知り合ったばかりの俺よりも友達と一緒の方がいいでしょ？」

　「そんなわけない！勝手に決めつけないでよ！！…私は私が一緒に居たい人と一緒に居るの！！」

　…なんだ。新妻さんは本当に葛原のことを乗り越えてたんだ。それなのに俺は新妻さんのことを守らなきゃいけないか弱い女の子だって思って見てたんだ。そんなの、怒られて当然だよね。

　「…ごめん。俺が間違ってた。確かに一緒に居たい人と一緒に居る、それが当たり前だよね。俺が新妻さんの中でそうなれてたなら、うん、嬉しいよ」

　「うん！もう私の中で一番一緒に居たい人は杉田君なんだからね！そんな悲しいこと言わないでよ」

　「…うん。ごめん」

　せっかくそう言ってくれてるんだ。俺の中にある同情心をなるべく消さないと。…そう、思ってるはずなのに思えば思うほど守りたい気持ちが溢れてくる。

　「う〜ん、じゃあさ、私のお願い、聞いてくれる？」

　「…お願い？内容にもよる、としか言えないよ？」

　俺が考え事をしていると、唐突に新妻さんがそう言った。俺にできる範囲でなら叶えてあげたいけど…。

　「…うん。その、里恵」

　「？新妻さんがどうかしたの？」

　「だから！…里恵って、呼んでほしい」

　新妻さん…里恵さんは真っ赤になってそう言った。そう呼んでほしいならいくらでもいいけど。

　「里恵さんって？別に構わないよ」

　「！あ、ありがと、ま、守、君。…えへへっ、なんか、恥ずかしいね」

　「…う、うん。そう、だね」

　…何だ、この感覚は！？名前なんて、個人を特定できればそれ以上の意味がないはずなのに！！新…里恵さんに下の名前で呼ばれると鼓動が速くなる。それに、何故か恥ずかしくなる。俺は失敗なんてしてないはずなのに、どうして！！？

　「…うん。もう思い詰めて無さそうだね」

　「…えっ？」

　「あっ、その。口に出してた？…だって、さっきのま、守君は何て言うか、辛そう？だった。守君がちゃんと謝ってくれたし、私はそこまで傷ついてなかったけどそれじゃ納得してくれないかな、って」

　「…俺のため、だったんだ。嬉しいよ、ありがとう」

　そう、だったんだ。なら、これ以上心配させるわけにはいかないよね？それに、少し変えるだけで良かったんじゃん。可哀想な女の子から優しい女の子に、守らなきゃいけないから守りたいに。…何だ。最初の気持ちと同じなんじゃん。

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