第14話

 そこからは特に何もなく学校に到着した…と言えれば良かったけど、かなり注目されてた気がする。まぁ、ずっと手を引かれてたから当然かもしれないけどね…。


 「…大丈夫、行こっ!」

 「…う、うん」


 その勢いも学校に着くまでだった。何とか教室の前までは来たけど、新妻さんの口数は明らかに少なくなっていた。そしてここで足も止まってしまった。…だったら、今度は俺が手を引っ張る番だ。


 「あ〜っ!やっと来た〜!」

 「へっ?」


 そして教室のドアを開けた瞬間、志多さんがそう言いながら駆け寄ってきた。そして新妻さんをそのままクラスの中心部まで引きずっていった。…うん、俺以外にもちゃんと新妻さんを引っ張ってくれる親友がいるんじゃん。


 これなら新妻さんも早くに立ち直れるかもしれないな。そうなれば俺はお役御免ってことで新妻さんと話すこともなくなるのかな?…早くそうなればいいなそれはなんかイヤだな。俺はチクッとした痛みを無視して新妻さんの幸せを願った。


 「もう1人の主役が何でこんな所でボーッとしてるのよ!早く行くよ〜!」

 「えっ!?ちょっ、志多さん!?」


 そんな考えをしていた俺を新妻さんと同じように志多さんが引っ張って新妻さんの隣まで連れてこられた。


 「…むぅ」

 「あ〜、ごめんね里恵。取るつもりはないから安心してね〜」


 そこで何故か新妻さんが少し不機嫌そうに俺の腕を掴んだ。その後に志多さんは何かよく分からないことを言って俺を引っ張っていた手を離した。


 「…浮気、ダメ、絶対!!」

 「えっ?…う、うん。浮気は良くないよね」

 「うん!」


 新妻さんが浮気を嫌ってるのは分かる…けど俺の方をジッと見ながら話すのはどうして!?俺はそんなことするつもりもないし、そもそも付き合ってる人もいないのに!!


 「ははっ、これなら里恵は大丈夫だね」

 「もう、心配して損した」

 「それな!今の方が楽しそうじゃん!」

 「また進展聞かせてね」


 俺たちの周りに集まっていた女子たちが口々にそんなことを言って離れていった。みんな新妻さんのことを心配していたそうだし、友達がたくさんいるんじゃん。俺もその中の1人だけど、うん。これならもう俺の役割は終わりだね。新妻さんも同性の方がいいだろうし。


 「…ねぇ、新妻さん」


 結局一緒に登校できたのも今日一日だけだし、下校なんて一回もできなかったな。里香さんにもあんな風に言い切ったけど、俺なんかよりも志多さんとかの方が安心するに決まってるよね。


 「一緒にいるのは辞めよっか」


 俺と一緒だといつまでも元カレのことが忘れられない気がする。だから俺はそう切り出した。新妻さんの幸せのために…。

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