第12話

 次の日の朝。俺は新妻さんの家の玄関前に居た。現在時間は午前7時30分。学校には8時30分までに着けばよくて、新妻さんの家から学校まではだいたい10〜15分。まだ余裕はあるにはある…が、ギリギリなのも良くない。かと言って、女の子には準備も色々あるだろうし早過ぎるのも良くない。と、悩んで早10分。


 …よし、決めた!!10数えたらチャイムを押そう。…い〜ち。に〜い。さ〜


 「あら?守さん、いらっしゃい。…里恵〜!守さんが来たわよ〜!」

 「本当!?すぐに行くね!!」

 「あっ、慌てなくていいよ。まだ時間に余裕あるし」


 …俺の心は絶賛パニック中です。どうして心の準備中にドアを開けるんですか、里香さん!…なんて言えるはずもなく聞こえてきた新妻さんの声に返すだけで精一杯だった。


 「うふふ。あの子ったら、守さんに会えるのを楽しみにしてたんですよ」

 「な、何言ってるのお母さん!!」

 「は、はは。お、私も新妻さんに会えるのを楽しみにしてました」


 流石に社交辞令を真に受けたりはしないけどね。それに、俺のことなんてさっさと忘れてくれた方がいいに決まってるよね。だって、俺のことを思い出すと必然的に葛原のことも思い出すことになっちゃうから。


 「ほ、本当…?」

 「へっ!?…う、うん」

 「…そっか。…嬉しい」


 …そのはずなのに、家から出てきた新妻さんは幸せそうに笑った。…うん、やっぱりだ。


 「…笑ってる方が可愛い」

 「ふぇ?…あう、その。…学校!!そう、学校行かなきゃ!!じゃあね、お母さん。ほら、行くよ杉田君!!」

 「えっ?あっ、ちょ、で、では、行ってきます里香さん」

 「あらあら、行ってらっしゃい2人とも」


 俺は新妻さんに思いっきり手を引かれて学校への道のりを進んだ。思わず口に出してしまったみたいだけど、それでも良かったかも。だって…今までで一番の笑顔が見れたから。


 …それにしても行ってきます、なんて言えたのは久しぶりだな。俺の両親は共働きで、行ってきますよりも行ってらっしゃいの方をよく言うから。…うん、誰かに見送ってもらえるのもいいものだね。


 「学校!楽しみだね!」

 「…うん、そうだね!」


 願わくば少し振り返って笑顔でそう言う君が、いつも幸せそうに笑っていれますように。俺は少し前を行く守りたいと思った女の子を見ながらそう思った。だって、たったそれだけで俺も笑顔になれるんだから。

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