第7話

 「だって、お金を渡したりは受け取らないでしょ?でも、気にかけてもらうんだから、里恵から何も返さないわけにはいかないわよね?だったら、行動で感謝を示すしかないんじゃないかしら?」

 「なっ!?…それは、確かにそう、なんだけど」


 里香さんに言い負かされそうな新妻さんはこっちをチラッと見た。そして、目が合った瞬間に慌てて逸らされた。


 「…恥ずかしいし」

 「何言ってるのよ。守さんも嬉しいわよね?」

 「へっ!?…それは、ノーコメントで」


 このタイミングで俺に話を振る!?どう答えてもダメな未来しか見えないんだけど…。


 「…よしっ!…食べて」


 それから何を思ったのか、新妻さんが箸で摘んだ唐揚げを差し出してきた。だけど、それでも俺は…。


 「…ダメだよ、新妻さん」

 「何、で?やっぱり、私に魅力がないから?」

 「それは違うよ」

 「じゃあどうしてよ!!私が悪いならはっきり言ってよ!!何で相談してくれなかったの!!勝手に離れてかないでよ!!」

 「落ち着いて、新妻さん」


 俺は立ち上がった新妻を抱きしめるように腕を回した。俺の前に座っていた里香さんも急な豹変に驚いているみたいだったけど、新妻さんの俺の方が先に行動できた。…4人掛けのテーブルでどうしてこの並びになってるのかは疑問だけどね。


 「…杉田、君?」

 「はい。杉田 守です。…落ち着きましたか?」

 「ごっ、ごめんなさい。私、また…」

 「それは気にしないで。でも、アーンとかは簡単にしちゃダメだよ。1回でもやっちゃうと、どんどん抵抗がなくなっちゃうからね。18歳まではそういうのを控えたいんでしょ?好きな相手ならまだしも、軽々しくやっちゃダメ、ね?」

 「…でも、もう、してあげたい人も、いない」

 「…うん。だから、新しくしてあげたいと思える人にしてあげてね」

 「…わかった」


 …果たして俺は新妻さんにしてあげたいって言われて断れるのかな?ふとそう思った。だけど、そんなことを考える意味はないよね?新妻さんが元気になるまでの間だけの関係だし。


 俺のいだいている新妻さんへの気持ちはきっと同情だけだ。彼女には幸せになってほしい、普通の人よりも深く傷つけられた新妻さんはもう傷つく必要なんてないはずだ。…彼女の幸せそうに笑う笑顔が見たい。できるだけ、近くで。


 そこからは特に何もなく自宅に帰った。さっきの新妻さんの様子を見たからか、帰るときに里香さんから改めて送り迎えをお願いされたけど、元からそのつもりだ。来ないでくれと言われるまでは来る。


 「…今日は色々あり過ぎたな」


 俺は自室でしみじみそう思った。

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