第5話

 俺はプライベートで今日初めて会話した異性の家で彼女とその母親と一緒にテーブルを囲んでいる。…どうしてこうなった?


 「守さん、こちらもどうぞ」

 「あっ、はい。いただきます」

 「うふふ、可愛いわ〜」


 …そして、母親の里香さんから餌付けされている。今も唐揚げを渡されたから、大人しくそれを頬張る。うん、美味しい。


 「って、お母さん!!そんなことをしに来た訳じゃないの!!」

 「あらあら、嫉妬かしら?安心しなさい、私はお父さん一筋だから」

 「なっ!そ、そんなんじゃないし!!し、し、嫉妬、なんて!!」


 新妻さんは真っ赤になって怒っていた。やっぱり、家だと素が出るのかな?学校では怒った姿なんて見たことないから少し新鮮だった。


 「…あはは、それじゃあ本題に入らせていただきたいんですが」

 「里恵のことで相談、でしたよね?私は構いませんよ?娘も高校生ですし、恋くらいするでしょう。…流石に結婚はまだ無理ですが」


 俺が話題を戻そうとそう言うと、里香さんはそんなことを言った。…いやいや、そんな訳ないじゃん。新妻さんには彼氏がんだから。…もしかして、新妻さんは家族に話してなかったのかな?


 「…違うの、お母さん。聞いて。…私、彼氏に振られちゃったの」


 新妻さんがそう言った瞬間、里香さんは一気に真面目な表情?になった。俺をじっと見つめる光のない瞳はもの凄く怖かった。『本当なの?』と聞かれているような気がして一度大きく頷いた。…内心、めちゃくちゃ首を上下運動させたかったけど、残った理性でそれは失礼だと恐怖心を押さえ込んだ。


 新妻さんは葛原と付き合ってから今日までのことを話していった。一目惚れだったこと、告白して成功したこと、初デートで映画に行ったこと、そして昨日、その彼が別の女性と親そうに歩いていたこと、気になって後を付けて行ったらラブホテルに入っていったこと、それを問い詰めたら逆ギレされて別れたこと。


 特にあり得ないのが、デートでのお金を新妻さんにたかっていたことだ。新妻さんも俺もデート代は男が出すべきなんて考えはないけど、それでも全額負担させるなんて間違ってる。しかも、デートの度に不躾な目で見ていたようだ。新妻さんは18歳までそういうことはしたくないってことで、キスもしてないそうだ。それも別れた原因なのかもしれないけど、無理して体だけの関係になるよりもよっぽど良かった。


 「…そう」


 最後まで聞いて里香さんは一言呟いただけだった。

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