第2話

 「…そう、だ。全部、私のせいなんだ、から。償わ、ないと」

 「新妻さん?」


 そう呟いた新妻さんは、ゆっくりと窓際に近づいていった。不穏な何かを感じた俺は新妻さんの方に向かった。


 「!新妻さん!?」


 そして新妻さんは窓の鍵に手をつけた。急激に嫌な予感が膨らんだ俺は大声で彼女の名前を呼んだ。だけど、その言葉は彼女に届いてなさそうだった。


 景色を見たいだけならいい。黒板消しの粉を落としたり、換気をしたりと必要なとき以外は開けちゃいけないと言われている窓を開けて風を感じたい、なら100歩譲って許可できる。…その結果は……


 「…私、なんて、要らない、よね?」

 「ふざけるな!!」


 俺の期待は悪い方向に裏切られた。予感が当たってしまった。窓を開けた彼女は、その縁に手をかけた。それを見た俺は彼女をかかえるように動きを止めた。


 「離して!!」

 「ダメに決まってるだろ!!」

 「何で!!離して!!…お願いだから、離してよ」

 「ふざけるな!!だったらその窓から離れろ!!」

 「ふざけてなんかない!!私は、死にたいの!!」


 そう振り返った彼女の瞳には光るものがあった。それは痛々しかったが、何も映ってない瞳よりも何倍もマシだった。


 「死ぬなんて言うな!!生きろ!!」

 「そんな、こと、簡単に言わないでよ!!私だって、まだ生きたい!!でも、もう嫌なの!!」

 「何が嫌なんだよ!!」

 「何もかもよ!!私の気持ちなんて知らないくせに、引き留めないでよ!!」

 「それこそ嫌に決まってるだろ!!何で死のうとしてる奴がいるのに見捨てないといけないんだよ!!」

 「そんなの自己満でしょ!!私を巻き込まないでよ!!どうせ私が居なくなっても構わないんでしょ!!居ない方がいいって思ってるに決まってるんだから!!」

 「いい加減に、しろ!!」

 「〜ッ!」


 このまま言い争っても埒があかないと思った俺は新妻さんに思いっきり頭突きをした。両手が塞がってたし、何とか冷静になってもらうにはそうするしかなかった。それに怯んで縁を掴む力が弱まった彼女を窓から引き離せた。


 俺たち1年の教室は4階にあり、本当に怪我じゃ済まない可能性もかなりあった。例え自己満足でも、クラスメイトが亡くなるかもしれない大きな山場を1つ乗り越えた。その行動を俺は絶対に後悔しない。


 自己満足?エゴ?押し付け?それで命が救えるならいくらでもやってやる。ぶつけたおでこを抑えている新妻さんを見て、俺は強くそう思った。

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