第3話
3
深い新緑の山の中にぽつんと赤いバスが、置かれている
周りには、何もない
ただ、錆びついた黄色いバス停の看板が、草に埋もれたアスファルトの中、佇む
「それで、本当に、彼奴が」
早朝、タロウが、教室に入ると、いつもとは違う
奇異な視線が、タロウに、向かっていた
それが、一体、何だったのか、タロウには、今一つ分からなかったが
めんどうだと、感じた
席に着くと、否応なく、声が、聞こえてくる
「誰なのかは、分からないけど、凄く、凄く、細くてさ、美人で」
タロウは、廊下とは、反対側の窓側の中間的な位置に、座っていたが
その列の最後尾にいた、尾丸は、昨日のことを、思い出していた
友達との会話の途中
他のやつも、タロウのことを、見ていたらしく、その話題は、あの美人のことへと、向いていた
年恰好が、同年代に、近く、もしかすると、転向と言う可能性も、捨てきれない訳ではなかったが
しかし、それを、わざわざ、聞くほどのことだと、考えている生徒が、いる訳ではないらしく
「そんな事が、あるのだろう
そんな、会話で、全ては、尾切れ蜻蛉に、終わって居るように、感じられた
「起立」
時間前五分
と、言ったところで、教室の前方のドアが開き
教師の正門が、入ってきた
よれたスーツではあったが
いつも、スーツでは、あった
「着席」
教壇に立つと、無精ひげからのぞく、その赤みがかった
野暮ったい瞳が、クラスメイトを、見るでもなく、眺め通すと
「今日から、文化祭の準備になる、放課後は、適度に、適当に、参加するように、以上」
実に短いホームルームが終わると
そのまま、机に、突っ伏してしまった
クラスの中では、ちらほらと、会話が、再興され始めたが、その話は、相変わらず、タロウの横にいた人物が、何者だったかについてだった
放課後、タロウが一人、帰ろうかと、用意をしていると、一人の女子生徒に、声をかけられた
「おい、話が、あるんだけど」
タロウは、ここ最近、学校で、話をした記憶が、無いのであるが
しかし、何だろうか、文化祭の用意は、持ち回りで、班ごとに、やることになっていた
今日は、自分の番では、無かったはずではあるが、記憶違いであっただろうか
「お前、日曜日に、スーパーで、かわいい女の子と、いたそうだけど、誰」
タロウは、名前も、ろくに覚えていない、同学年の女子に対して
めんどくさい物を、見られたことを、思い返していた
先日、一人買い物に向かう途中
いきなり、強盗か何かのように、腕に、タックルする衝撃とともに
「スーパーの視察だ」とか、何とか、良く分からないことを言われ
付きまとわれたことを、思い出していた
やはり、面倒な事になった、目だったのだろう
しかし、あれを、何と説明しよう
いとこ
そう考えて、余りにも似ていないことと
いとこと言う存在について、言う事で、後々、何か不利益になることはあるのだろうかと、思い返すと、正直、分からないという言語が、飛び出した
家族、妹、ストーカー・・・
その最後に、恋人と言う言葉が、消され
口を出たのは
「親戚です」
という、無難なものであった
正直、あの顔立ちは、目立ちすぎる
世の中には、悪目立ちと言うものがある
不潔と言うのも問題であるが、おしゃれと言うのは、それはそれで問題であった
行動と言うものに、意味があるのであれば、それを、洗練させると言うのは、それだけで、意味になってしまう
「親戚ねぇー、似てないな」
大きなお世話だ、しかし、背中には、冷や汗が、流れる
何か、問題が、出るのだろうか
このクラスの中で、特に何事もなく、過ごせればいいと、思う反面
クラスの当初に覚えていた名前も、余りにも使わないので、この半年で、大まかに、忘れている
その程度には、錆びついた人間関係において
何か、不利益が、あれに対して、起こってくるのであろうか
「ねえ、私と、友達に、なれないかな彼女
どうして、この街に、来たの、転校生・・旅行」
矢継ぎ早の質問攻めに、たじたじと、してしまう
やはり、面倒な事に、なりそうである
今からでも、自分と言う、目立たぬ存在を、前面に押し出して、人違いを、主張することは,
可能であろうか
携帯電話を取り出し、何かを、言い始めた相手に対して、タロウは、困り始めていた
「すいません、凄い人見知りで、そのせいで、田舎に、ちょっとの間、預かる形で、います」
「はい、親戚で、えっ・・あ・・はい、同じ、家ですけど・・・ええ、まあ、確かに、家族は、自分・・あ
ええ、はい」
「メールですか・・やっているか・・・でも、ええ、はい、いえ、なにもありませんよ
僕なんかと、ええ・・・怪しくは、無いですよ、ええ、はい、聞いてみても良いですけど、ええ、ああ、紙に、アドレスを、期待しない方が・・はい、ええ、転校は、無いかと、思いますが、はい、好きなものですか、なんでも、食べるんじゃないですか
身長・・さあ、知りません
年齢・・・同い年くらいじゃ、無いでしょうか
何で知らないんだ
・・・まあ、特には
名前
名前ですか」
タロウを、後ろの方から、眺めてみる
自分も、今日は特に、放課後の準備が、このクラスである分けではない
ただ、興味はあるし、面白そうなので、しばらく、いるともなく、席にいた
名前と聞かれたところで、言い淀み、しどろもどろになって居る
この間は、一体何を、言い表しているのだろうか
なにやら、他の生徒も、その話を、聞いているような風でもあった
普段、存在に、登らないものが、何かを、聞かれている
それは、行動を起こす引き金に、十分に上がると言う事は、もしかすると、自分に関係のあることになりかねない情報だと言う事だ
「ああ、ええっと、花です」
ハナちゃんっていうんだ
相手の女子生徒は、そう嬉しそうに言うと
メールよろしくと、取り付けて、そんなことなどなかったかのように、教室を出ていく
何か、顔を青くしたようなタロウは、教室を、よろめくように、出ていく
丁度、用事もなくなったので、私は、後を追うように、席を立った
そのまま、奴の家まで、追いかけても良かったが
あいにく、自転車は、途中で、反対方向へと向かい
塾もあることで、私は、その日の追跡を、後にすることになる
「それで、お前の名前は、何て言うんだ」
家に帰ると、ソファーで、洗濯物を、前に、寝ている
猫のような、存在が、目の前に、止まった
今まで、そんな物など、存在しなかったが
つい先日、ゴミ処理場で、拾ったと
学校帰りのタロウの目の前には、やけに新しいソファーを、見ることになったが
本当に、ゴミ処理場のものなのであろうか、だとしたら、それはそれで問題なのではなかろうかとは思うが、どうせ捨てるのであれば、それでいいのかもしれないが
そのやけに新しい感じが、果たして、盗品でない事を、祈らざるおえないのではあるが
「でーじょうぶ でーじょうぶⅤ」
と、Ⅴサインを、出しながら、ゴミ置き場に、放置されたソファーの写真を、見せつける
女のような男がいた
「それで、お前名前は」
その言葉に、こちらを、覗き込む、大きな目
髪は、まるで、櫛のように、一定間隔の中、瞳をその奥で、揺らしてみる
「ようやく、聞いたな、何だと思う」
質問を、質問で返されるも
勝手に名前を、決めてしまった
さすがに、何も言わないのは、不味かったが
しかし、決めてないと言う事の方が、明らかな問題である
しかし、誰かが見ていようとは、思えなかった
自分と言う、いても居なくても良い存在に対して
この存在は、明らかに、めんどくさい
「花」
じゃあ、それ、決定稿
花と決められた存在は、直ぐに、それを肯定するが、納得できない
いや、納得しても全くこの場合、タロウにとっては、問題は、無いのであるが
しかし、この時になってようやく、名前さえ決めていないことに気が付いた
植物に、名前を付ける場合のある人が居るが
正直、この異物に対して、空気のような、存在として、放置していた
自分が、問題点多いのかも知れなかったが、しかしながら、この時
やはり、こいつには、名前が、もともとあったはずであり
それを知らないと言うのも問題かもしれない
ただ、こういう、存在は、不確定だ
本当は、自分の思い込みで、もしかすると、あのクラスメイトとの会話も幻覚、幻聴
だった可能性も、あるが、第三者という存在で、この不確定な存在が、目撃されたことを、鑑みるに、存在は、する可能性が出てくるが
どちらにしても、名前と言うものは、本来、知られると、操られてしまう
何て言う話は、よく聞く話だ
それを踏まえ、相手も、わざわざと、その言葉に、触れなかった可能性もあれば、それを、いま、わざと、聞く必要性は、全く無いのかもしれない
ただ、気になり、聞いても見ることにした
「なあ、お前、名前は何て言うんだ」
ハナは、こちらを、ソファーに寝っ転がった状態で、仰向きに、こちら画を見た
その目の下の唇は
「名前は、まだ無かった、今決まった」
と、じゃれごとを、言っている
やはり、教えたくはないらしい
しかし、そうなると、多少興味がわいてきた
こいつが、霧霞のように、どういう状況下かは、分からないが、それで、自然発生したのか
それとも、この世ならざる世界から、歴史をもって、生まれて来た意識体なのか
私は、相変わらず、のどもとを、見せて、ソファーから飛び出した首が苦しそうに、ねっころがる、その異物にたいして
「お前、何処から来たんだ」
と、宇宙人にでも言うようなことを、聞いてみたかったが
「っあ」と、言ったかと思うと、機械音性が、辺りに響く
「すえんたく、すえんたく」
異様な言語を発し、洗面台に、走っていく
どうやら、脱水が、終わったらしい
広り残された自分は、メモ帳のメールアドレスを持ちながら
どうしたものかと、一人、孤独に、途方に暮れていた
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